「光の天使」番外編 オスカー・フォン・ブラウンの恋 

来夢来人

第1話 オスカー・フォン・ブラウンの恋 <プロローグ>

 帝国では、エルフィンとハンネスが逃亡した後、粛正の嵐が吹き荒れた。

 お気に入りのペットを失い、総統は狂気をむき出しにして、荒れた日々を送るようになっていた。


 その日も、一夜限りのペットを求めお忍びで夜のまちを総統は徘徊していた。

 帝国軍マルデクの情報省長官オスカー・フォン・ブラウンは、帝国の民を護るために、その日も総統に張り付き、見張っていた。


 昔は、総統の目にとまり宮殿に呼ばれることは、出世の糸口になり得たが、今は違う。エルフィンが生きている以上、総統のお気に入りの座は得られないのだ。ただエルフィンの代わりに死ぬまで、拷問にも似た総統の愛の鞭を受けることになる。

 そして最近は、高額の報奨金に目がくらみ、美しい若者を見つけ、売ろうとする者もいた。そしてその日も、売人の毒牙につかまってしまったひとりの美しい若者がいた。


 若者は子供の頃、離ればなれになった兄を探していた。

 売人は言葉巧みに若者を、夜の街へおびき出し、総統に会わせようとした。

 若者は兄に会えると信じ、その場にいた。

 その夜は、10人ほどの若者が、その場に集められていた。

 オスカーはうんざりしながら、遠目に若者たちを見ていたのだが、一人、場違いに思える若者が混じっていることに気づいた。

 明らかに夜の街とは関係のない、普通の若者だった。

 しかし、とびきり美しい若者だった。


 オスカーはその若者に言葉をかけた。

「私はオスカー。このあたりではあまり見かけない顔だが、こんな時間になぜここに? 戒厳令が出ているから、外出は禁止のはずだ。

 許可証はもっているのかな?」


「許可証なら、もっています。兄が取ってくれました。

 今日ここで、十年以上も離れ離れになっていた兄とやっと会えるのです」


 そう言って若者は、嬉しそうに笑った。

 天使のように美しい、若者だった。

 その無垢そのものの笑顔を見て、オスカーはまずいと思った。

 総統にその羽を折られ、いたぶられたあげく、殺されるには、あまりに若く無垢で美しい少年だった。

 速くこの場から、連れ出さねばと、オスカーは思った。

 しかし時すでに遅く、総統はすでにその若者に気づいていた。

 そして連れのものに、


「今夜は、あの者にする。

 オスカーと話しているあの者を宮殿へ招待するように。

 今日は奥の間を準備せよ」

そう言うと総統はすぐに、オスカーに反撃の間すら与えず、宮殿への帰途についた。



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