142話 打つ手なし
俺は半ば絶望してたが、ご主人とノーヴェは冷静だった。
ぜんぜん諦める気はないみたい。
「武器も魔法も効かねえか」
「じゃあ『話し合い』、とか言わないよな」
「バカ言うな、こんな生まれたてのやつと会話なんてできねえよ」
「古代のやつらは、こんなでっかい魔物を造ってどうするつもりだったんだ?制御なんてできないだろ」
「そこは契約魔法で縛るつもりだったんじゃねえか」
「じゃあ契約術士を連れてきたら何とかなる?」
「……無理だろうな。複数人で発動する古い強力な魔法を使うはずだ。もうとっくに失われてる魔法だ」
話し合っている間にも、魔物は徐々に体の残りを出そうともがく。
どうやら、胴体も太いから詰まって抜けないみたい。
完全に生まれちゃって、動き回られたらそれこそ詰みな気がするぞ。何か手立てはないものか。
「前に倒した固いやつ、いただろ」
「あー、あの竜種か。手こずったな」
「あいつのときは、障壁に負荷を掛け続けて魔力切れになったところを狙ったろ?同じようにできないかな。こいつ、すごいデカいから障壁と魔法無効の両方使ってたら消費魔力も多いはずだし」
「うーん……それもありか」
そっか、魔力切れを狙うのも手か。
確かに、こんなに大きい体全部を覆うような魔法は、すごく魔力使いそうだな。
ご主人は俺が出した水を飲み、ノーヴェは固焼きパンをかじりながら、話し合いと警戒を続ける。補給できるときに、しておかないと。
魔物はまだ殻から出てないけど、もうすぐ胴体が出そう。
ご主人は何かに気づいたようにパンをかじかじするノーヴェを見てから、首を横に振った。
「いや、やっぱりそれもダメだ」
「なんでだよ」
「さっきノーヴェが言ったろ、こんなデカい魔物を造ってどうすんだって。餌が一番問題だ」
「まあ、そうだな」
「こんなの普通の餌じゃ養えない。それにこの規模で魔法を使うなら、自然回復では追いつかない。だから、きっと魔力を食べて存在を維持するような設計にしてるはずだ。真獣がそうだからな」
そうなのか……。確かにポメも魔力を吸ってるみたいだけど。
それがどうダメなんだろうか。
「それで?」
「今はまだ、卵の間に供給されて蓄えてた魔力で障壁を作ってる。それに魔力の吸い方を知らないみたいだ。でも魔力切れになったら、今度はまわりの自然魔力を吸い始めるぞ。大量にな」
「……それはまずい!」
ノーヴェはガバッと立ち上がった。
「そうなったら、ここら一帯が不毛の地になるぞ!それだけじゃない、魔力の均衡が崩れて、下手をすれば大きな『歪み』ができてしまう……!」
「だろ?だからダメなんだよ」
そうなのか。めっちゃヤバいな。
……いや待ってほしい。ますます状況が悪くなってないですか。
つまり、魔法も武器も効かない魔物を、魔力切れになる前に倒さないと、ここが住めない土地になって、どのみち詰みってこと?
打つ手がないじゃん。
今度こそ、本当に絶望だ。俺は怖くなって外套をキュッと握りしめた。
しかし。
追い討ちをかけるように、状況はまた悪くなる。
「……見ろ。胴体が出てくる」
「うわ、なんだあの形」
そう、魔物の胴体が大穴から出てきたのだ。
地面にボコッと亀裂が入り、つっかえてた胴がついに姿を見せた。
……亀みたい?
恐竜にこういうのいた気がする、水の中で暮らす首長竜の……名前は思い出せないけど。
背中には、小さな突起が二つある。翼かな。あんなのじゃ飛べないだろうに。
やがて後ろ足も見えた。前肢よりもさらに小さくて未発達だ。
大きすぎる頭部、長い首、小さな足、ずんぐりとした亀の甲羅のみたいな胴体に、飛べない翼。にゅるんと長くない尻尾が最後に出てきて、全身の孵化が完了した。
ついに、生まれてしまった。
何もかも、ちぐはぐでアンバランスだ。
……なんと哀れな生き物だろう。
「竜種、にしては
「どうしよう、はやく倒さないとまずい。ハルク、何か方法はないのか?竜を
ノーヴェが、慌て始める。
竜を屠る剣って何!そんなかっこいいやつあるの?でも武器はダメなんでしょう。
マジでどうするんだろう。
何かいい案はないかな。俺も必死で考えてるけど、この魔物の大きさに有効な手段ってないんだよな。
「剣じゃ一撃で倒しきれない。圧倒的な物量で障壁ごと潰すものじゃないと……」
ドッ!
ご主人の言葉の途中で、魔物の頭が植林地の端っこに激突した。数本の木が草みたいに薙ぎ倒される。
やばい、ちょっと頭振っただけでこれだ。別に攻撃とかしてこないけど、こいつが動くだけで災害じゃん。
俺はビクッとしてノーヴェにしがみつく。ノーヴェも俺をキュッと抱き締めた。
「この野郎!大人しくしてろ!」
ご主人はすぐさま魔物の鼻先近くにジャンプして、空中で大きな木の杭を取り出し、地面に投げつけた。
ドドドッ!
魔物の行く手を阻むように砂地に刺さる杭。その大きさは、ご主人の身長の3倍くらいか。
ガンッと魔物の頭がぶつかったが、杭は無事だった。おお、すごい。いろいろ出てくるなあ、ご主人の収納。この魔物を倒せる武器は入ってないんだろうか。
その後もご主人は、魔物を囲むように何箇所かに杭を投げつけた。これでひとまずは動きを封じられた。後ろ足がほぼ機能してなくて動きが遅いから、まだ助かってる。
俺とノーヴェのところに戻ってきたご主人は、ものすごく顔をしかめている。
「ひとまずは大丈夫そうだな」
「……ああ」
「これからどうする。あとはミズラの街に援軍を呼びに行くくらいしか、打つ手はないぞ」
「……ひとつだけ、方法がある」
「えっ?」
嫌そうに、本当に嫌そうな顔をして、ご主人は収納から何かを取り出した。
それは、先に大きな丸い球体がついた杖のようなものだった。
いかにもファンタジーの魔法使いが使いそうな装飾が施された杖。
一体何をするつもりだろうか。
ご主人はため息をつきながらそれを魔物のほうへ向けた。
「これだけは、使いたくなかったよ」
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