136話 中間報告



 遺跡の外に出て、イスヒたちと合流した。



 空が見えるっていいな。開放感がすごい。


 そしてお昼ご飯の時間です。


 丸い祭壇が見える植林地の隅っこで、それぞれ食事をとりながら調査について話をしている。



「イスヒ、何かわかったかな」

「そっすね、地表のあの丸い岩と円柱、やっぱり下の遺跡と繋がってそうっす。遺跡自体は火山灰で埋まったんだと思うんすよね。その先端だけ地表に残ったのかなって」

「ふむ」

「あ、それとあの円柱、なんか魔力を帯びてるんすよ。触るとほのかに熱いっていうか」 

「俺も触った。変な感じがした」


 もそもそと粥のようなものを咀嚼しながらマルガも話に加わった。


 傭兵組のごはん、今日も穀類か。オートミールみたいなやつかな。学者たちは相変わらず燻製肉と携行食の堅焼きパンだ。


 俺たちは蒸した堅焼きパン、肉と豆のピリ辛炒め、そしてキュウリっぽい野菜の酢漬けです。デザートにドライフルーツもあります。おいしい。



「中はどうだったんすか」

「今のところ特に珍しいものはない。かなり古いというだけだ。ハンザール、君の目から見てどうだった?誰かが出入りしていたと思うか?」

「人が入った形跡は……正直に言って、わからん。もし誰かが出入りしていたとしたら、そいつは相当に慎重なやつか、別の出入り口があるのかもしれん」

「そうだな、侵入の目立った痕跡はなかったぜ」


 へえ、俺が壁の模様とかに見とれていた間、ハンザールとご主人は出入りした人の痕跡が無いかどうか確かめてたんだな。さすがプロ。


 のんびりとピクニック気分で昼ごはんを食べながら、みんながわいわいと意見を交わすのを眺める。


 ご主人は騎士団が描いた見取り図と睨み合いながら、昼ごはんを口に運んでいた。



「うーん……この構造。もしかして……」

「ハルク、何か気づいたのか。ならちゃんと報告しろよ、今度こそ」

「わかってるよ。ちょっと確証が持てなくて。……誰か粘土か何か持ってねえ?」


ごはんを食べ切ってから顔を上げ、ご主人はみんなに呼びかけた。


 粘土?



「何に使うんだよ」

「僕が持ってるっす!ちょっとそこで採取したやつがあるっすよ」

「ちょうど良かった。借りていいか?」

「もちろんっす!何作るんすか」

「まあ見ててくれ。すぐわかる」


 ご主人はイスヒから受け取った粘土の塊を捏ねて、手のひらで棒状にしていく。


 そしてそれを切ったり繋げたりし始めた。


 む、もしや遺跡の模型を作ろうとしてる?



「ハルク、それ遺跡の通路か?」

「そうだよ、この四角の輪が一層目、この曲がりくねったやつが二層目、三層目は四角が二重……っと。階段部分を作って……これを上下に重ねて、出来上がりだ」


 見取り図をもとに作られた、遺跡の通路の模型が、どん!と地面に置かれた。


 なかなか器用だなご主人。



「ほう、少々不恰好だが、遺跡の立体構造がわかりやすくなったな」

「すごいっす!」

「ハルクは器用だ……」

「で?これがどうしたっていうんだ」

「文字だよ」


 ご主人はすうっと指で粘土を撫でる。


 文字?



「真世語は、最初は立体文字だったっていうのは知ってるだろ?」

「ああ、もちろん」

「知ってるっす」

「そうだったのか?知らないよ!」

「最初は立体文字だったんだよ。それを無理やり平面にしたのが菱形文字。それをさらに分解したのが、いわゆる古語。そして発音のみを取り出したのが現代語だ──まあ、それは今はいい。俺が言いたいのは、この遺跡の通路の構造が、文字になってるってことなんだよ」


 な、なんかすごい話になってる。


 立体文字?なんだそれ。どうやって読むんだろう。建物自体が文字?



「それは本当か?」

「……確かに、立体文字に見られる構成っすね。意味はわからないっすけど。ハルクは読めるんすか?」

「実は俺もわからん」


 何だそれは。みんなちょっとガクッと肩の力が抜けた。



「でも、わかることもあるぜ。イスヒ、この構造を見て、建物としてどう思う?」

「建物としてっすか?うーん、そうっすね……いくら古代の技術がすごくても、この構造で建物支えるのは難しくないすか?柱も見当たらないっす」

「確かにな。ということは、初めから地下に作られていたのかもしれない。……そういえば、内部には窓など採光の設備はまるでなかったし、過剰なほどに照明が多かった。地上に作られていたとしたら、説明がつかんな」

「それか、何らかの要因で地上部分は崩れたのかもしれないぞ。地下だけが無事だったのかも」

「……そういえば、二千年か三千年前に『星』が落ちてきて北湖が出来たって聞いたっす。そのときの衝撃が波みたいに伝わってこのあたり一帯の地表のものは消し飛んだり壊滅したらしいっすよ。地層にも残ってるっす」

「なるほど、いくら強力な魔法抵抗やら保護やら魔法をかけていても星隕には敵わないか」


 だんだん話についていけなくなってきた。傭兵組はわりと初めの方で話を聞くのをやめ、警戒シフトに入っている。


 タリムがパン!と手を打った。



「遺跡の構造・由来の考察はここまでにしておこう。さて諸君。現時点での君たちの所見を聞きたいのだが……この遺跡の学術的価値はいかほどだろうか?」

「……無いっすね」

「無いな」

「えっ!」


 価値無いの!?


 学者たちとご主人の意見に、その他の人はびっくりしていた。


 そりゃそうだよ、さんざんいろいろ興味深そうなこと言ってたのに!


 無いの!?



 ご主人の手によって、くにゃりと捻り潰された粘土の模型が物悲しかった。




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