22話 冒険者組合サンサ支部




 大きい。


 冒険者組合支部、役所かと見紛うほどに大きかった。


 支部?支部でこれなら本部はどうなっちゃうんだ。


 ぽかんとして立ち止まった俺を面白そうに見るノーヴェ、ご主人、アキ。


 見せ物じゃないんだよ。



「ふふ、大きくてびっくりしたろ?」


 ノーヴェがおかしそうに言う。


 たしかに大きいですけど。それは俺がまだ小さいから、相対的に建物がデカく見えてるだけです!


 石と木を上手く組み合わせてあって、威圧感は少ない、けど人が多い。


 冒険者って大自然を相手にするわけだから、もっとマイナーで田舎っぽい職業かと思ってた。こんなシティーなかんじなのか。


 入ってすぐ総合インフォメーションのような受付が一つあり、用件に応じて別の窓口へ案内される仕組みになっている。窓口めっちゃある。


 申請や登録や預金の引き出しなんかは窓口(というかカウンター)だけど、買い取りの査定やその他審査などはまた別室に行くみたい。


 今日の用事は俺の『何ちゃら証』の発行だから、窓口で済む。


 ……のだが。


 隣の窓口に行列が出来ていた。



「……護衛依頼の窓口だね。例の商会の影響で職にあぶれた冒険者と、隣国の戦争の噂で動きが活発になってる商人の依頼主とで混み合ってるみたいだよ」

「買取のほうにも人が流れてたな。契約先がいきなり潰れてこっちで取引する人が増えてる」


 あの商会の顛末が、こんなに冒険者にモロに影響してるとは。社会って複雑だ。



 俺たちの向かった窓口は空いていて、すぐに対応してもらえた。ご主人が代表して手続きする。


 俺は隣に並んだ……が、カウンターが背伸びしてかろうじて覗き込める高さだった。子供に厳しい世界だ。


 担当のお姉さんの腰帯あたりしか見えん。



「随行者証の発行に来た」

「冒険者証をお見せください。こちらの書類に記入をお願いします」


 ご主人が首から下げていたドッグタグみたいなものを取り出す。背面はパーティーの階位である黒で、表は金属に特殊なインクで印字してあるんだって。お風呂の時に見せてもらいました。


 ご主人が書類に書き込んでいる間、受付さんはタグを何かにかざす。



「パーティー名『ガト・シュザーク』、リーダーは『シュザーク』、階位は『黒』、で間違いありませんね?」

「ああ」


 ちょっと!


 なんですかそのパーティーの名前!知らなかったんだけど!なんかおいしそう。


 恨みがましい目で後ろのノーヴェを見る。教えてくれてもよかったのでは。



「……ごめんね、言うの忘れてた」

「あれ、言ってなかったか?古語で『シュザークの一味』つまりリーダーの家族って意味だな」

「恥ずかしいんだよねパーティー名……田舎の傭兵団みたいだろ」

「田舎の傭兵団は古語を使わないだろ」

「そういうことじゃない!」


 待って、リーダーの名前ってシュザークだったの?それも知らなかったが。


 知らないこと、いっぱいだな。



「なあノーヴェ、ここに『随行者の種類』って項目があるんだが、アウルは何に該当すると思う?『奴隷』はないし……『助手』でもないよな」

「『見習い』だと思ってたけど」

「それって、いずれ冒険者の登録をする子供向けじゃねえのか」

「アウルは冒険者になるんだろ?」

「え?」

「え?」


 え?



「どうかなアウル。まだ登録出来ないけど、10歳になれば冒険者になれるよ」

「ほかになりたいものがあれば、遠慮せずそっちを選ぶといいぞ。どうする、冒険者になるか?」


 えー。いきなり人生の分岐が発生したのだが。こう見えていちおう奴隷なんですけど、そんな自由でいいんだろうか。


 というか冒険者のみんなをサポートする気満々だったから、冒険者で問題ない。


 こういうのは迷ったらダメ。


 冒険者に俺はなる。どん!



「よし、じゃあ『見習い』だな……書けた」

「ではこちらの内容で随行者証を発行いたします。少々お待ちください」


 ご主人が受付さんに書類を渡した。この位置からだと角度がつきすぎて書いてある文字が見えない。せめて自分の名前くらい見たかった。


 一分くらい待って、みんなと同じようなネックレスのタグが渡される。


 背面は黒白の半々になっている。パーティーの黒、随行者であることを示す白。

 表は謎技術で印字された文字の入っている謎金属。


 かっこいい。


 さっそくご主人に首にかけてもらう。


 俺も冒険者見習いかあ。



「そちらの随行者証は、無くされた場合は各支部で申し出ていただければ再発行できます。こちらのほうでパーティーの情報と紐付けてありますので損失もございません」

「ああ、ありがとうな」

「では、よき巡りを」

「よき巡りを」


 お姉さん、事務的だったがテキパキしててよかった。こちらの会話に口を挟んでこないところも良い。言葉遣いも美しい。


 ご主人が警戒してたから身構えてたけど、いいところだな、組合。


 こうして俺は書類上でも正式にパーティーの一員になり、冒険者人生の第一歩を踏み出したのだった。


 冒険者目指してがんばるぞ。



 ……あれ?

 奴隷じゃなかったっけ俺。




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