7話 おはなし
「落ち着けノーヴェ、ハルクの話を聞こう」
「……わかったよ」
騎士っぽい人が白い人を宥める。
部屋には他にも2人いて、こちらをうかがってはいるが会話には加わってこない。
うちのご主人がご迷惑おかけします。
「話も何も、そのままの意味だ。拠点で雑用してもらう人をずっと探してたろ。ちょうど安かったから買った」
「……確かに探してはいたけど。あのな、安いってのは訳ありだしまだ子供だし、拠点はこの街じゃないだろ。もうちょっと考えて行動してくれよ頼むから……」
まったくですよ。
自由人なのはいいが、自由には責任が伴うんですよ。
「考えてるっての。こいつ、例の商会にいたんだぞ。話聞けるしちょうど良かっただろうが」
「え、嘘、本当に!?お手柄じゃないか!」
「だろ?」
まったくの偶然だけどな。
怒っていたのが一転して、白い人はコロっと機嫌を直した。
ご主人があれなので心配してたけど、パーティーの人たちはわりとちゃんとしてる人たちで良かった。ご主人は運とかすごくいいタイプの人なのかもしれない。
リーダー(暫定)さんがゆるりと俺たちを見回した。
「それで、話は聞けたのかな?」
「ああ、こいつは話せねえから俺から話すよ。でもまず風呂と飯だ」
「そうだな。落ち着いてから話そう。ハルクがいない間にこちらもいろいろあってね……アキ、何か作ってあげてくれるかい?」
「ああ」
騎士っぽい人の呼びかけで、のそっと現れたのは褐色の肌に野生的な白い髪をした細身の人だった。猫科の貫禄がある。
猫科の人は備え付けの簡易な調理場に向かった。
猫科の人はご飯の人か。
「あー、ダイン、風呂からでたらこいつ診てやってくれ。治癒しきってないらしい」
「あァ?治癒だァ?」
「たのむぜ」
ご主人はカウチにごろんと転がっていた人に声をかける。このメンバーの中で一番体格がいい。治癒、とか言ってたから治癒師なのかもしれないけど絶対に盾だ。盾の人だ。俺にはわかる。
そうやってメンバーを観察していると、ひょいっと持ち上げられて風呂場に連れて行かれたのだった。
部屋に風呂までついてるのかこの宿。
すごいな。
あれよあれよと服を剥がれ、ご主人共々アワアワになった。泡立ちの良い石鹸、良い文明の香りがするね。
アワアワを流して(シャワーもありました、文明最高!文明最高!)、タイル張りの浴槽に張られたお湯にとっぷり浸かってため息をつく。
なんと幸せなのだろう。
地獄の日々が嘘のようだ。どっちかが夢なんじゃないだろうか。
ここ1ヶ月、この身体はもっとだろう、溜まっていた疲労がじんわり溶けてゆくようだった。
風呂なんてこっちに来て初めて入った。
ご主人も極楽極楽という顔をしている。
いや待て。
風呂に入れられるのは奴隷としてどうなんだ。風呂を入れたり、風呂に入れたりする側じゃないのか俺。
なぜ俺がお世話されているんだ。
「なんだ?不機嫌そうな顔して」
「してないです」
「うーん、もとからムスッとした顔してるもんなあお前」
「してないです」
ムスッと言い返す。ちょっと奴隷のプライドと戦ってただけだ。
たしかに鏡で見たこの身体の顔はムスッとした不機嫌な子供だったけど。ボサボサの赤茶色をした髪に薄い緑色の目が見慣れなくて、やっぱり転生もとい入れ替わった実感が湧かない。
話題を変えよう。
「黒色パーティーって何ですか」
「ん?ああ、それは冒険者のパーティーの階位だよ。色で分けてるんだ。一番下が白、一番上は紫だな。功績を上げれば上に上がっていくんだ」
「黒はどれくらいなんですか」
「上から三番目だよ」
「すごい」
「そう、すごいんだぞ」
冒険者パーティーのランクを色で呼んでるのか。
上から三番目だと、アルファベットで置き換えたらB級ってところかな。
たぶん、すごいんだろうな。
「俺は早く次の緑になりたいんだよ」
「どうして?」
「緑はいい色だからな!」
いい色なんだ、緑。
ご主人は緑色が好きらしい、と結構どうでもいいけど大事な情報を頭のメモ帳に書き加える。
その後も、冒険者がどんな仕事をするのか、拠点があるという王都がどんなところなのか、といった話をした。
ずっと話せなかったから、いろいろ尋ねてしまう。ご主人は律儀に答えてくれる。おしゃべりって楽しいな。
話し込んでしまい、すっかりホカホカになってから風呂を出た。
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