#47 生活音
ジョギングを再開すると、再び構内のルートを軽く1周流して終了し、帰りはクールダウンの為にのんびり歩くペースで帰った。
俺もミキも体力的にはまだ余裕があるので、お喋りしながら歩いた。
スマホで時間を確認すると8時を過ぎており、「朝食は何食べよっか」とか「今日は何して過ごそうか」など雑談しながら歩いていると、大学から近いので直ぐにワンルームに到着。
2階に上がり廊下に出るまでお喋りを続けていたが、お隣さんの玄関扉が視界に入ると二人ともなんとなしに無言になる。
お隣さんの扉の前を無言のまま通り、自宅の玄関のカギを開けミキから先に入ってもらい、後に続く様に自分も入って施錠する。
「汗いっぱいかいたね!もう1っ回シャワー浴びよ?」
「うん、俺も早くシャワーでさっぱりしたい」
脱衣所は二人入って服を脱ぐには狭いので、その場で二人同時にTシャツやハーフパンツ等を脱いですっぽんぽんになるとお風呂場に直行して、頭から冷たいシャワーを浴びる。
ボディーソープを使って一通り汗を洗い流すと、ミキがシャワーを止めて湯船の淵に腰掛けたので、何となく俺もその隣に腰掛けた。
「ちょっと気になったんだけど」
「うん?」
「お隣さんって、静か過ぎない?」
「むむ?」
「気になりだしたのは昨日の夜ヒロくんに言われてからなんだけどね。 確かにお隣さんから騒音とか全然聞こえてこないんだけど、今までココにお泊りしに来てた時でも本当に居るのかなって思うくらい静過ぎない?って思って。 週末はどこかお泊りしに出かけてるのかな?平日とかどう?」
「うーん、確かに言われてみれば、去年までに比べて静か過ぎるね。平日はどうだったかなぁ…。 玄関の開け閉めの音は聞こえてくるね。後、お風呂とトイレが俺の部屋側にあるみたいで、水流す音とかは微かに聞こえてくるよ」
「じゃあやっぱり普通に生活はしてるんだね」
「昨日直ぐそこのスーパーで見かけたくらいだし、居るのは間違いないと思うよ。もしかしたら、騒音聞こえやすいマンションだっていうのに気付いて、テレビとかゲームとか使う時はヘッドホンとか使う様に気を遣ってくれてるのかもね」
「そうなのかなぁ。でもなんか引っかかるんだよねぇ」
ミキは全身濡れたままの裸で、腕組みして考えるポーズをとった。
「女の子なんてそんなもんじゃないの?ウチの実家でもヒトミは静かだったよ。マユミは五月蠅い方だったけど」
「ウチだとそんなことないよ。 部屋で友達とかと電話してると、しょっちゅう弟が『うるせぇ!静かにしろ!』って怒鳴り込んでくるもん」
「そりゃミキは実家でずっと住んでるし遠慮とかするタイプじゃないから。それにお隣さんはミキと違ってなんか大人しそうじゃん。地味というか、陰キャ?って感じするし。ミキの場合は、元気一杯天真爛漫なお姉さんタイプ?悪く言えば超体育会系の押しが強いタイプ?」
「何それ!まるで私が無神経な人みたいじゃん!」
「無神経とは言わないけど、我が強くてたまーに押しつけがましい時あるよ」
「酷くない!?こんなにもヒロくんラブなのに!」
「そういうトコだよ」
俺がそう指摘すると、ミキは下唇を噛んで「むぅぅ」と悔しそうに俺を睨み返した。
「いいじゃん。そういう所も含めて『ミキらしいや』って俺は好きだよ?」
「なんか誤魔化されてる気がする」
本音でそう思ってるので「何言ってんの」って言いながら立ち上がり、風呂場の扉を開けて手を伸ばしてバスタオルを2つ取り、1つをミキに渡してから自分の体を拭いて脱衣所に先に出た。
俺がボクサーパンツとTシャツを着ていると、後から出て来たミキも首にタオルかけただけの裸のままクローゼットをゴソゴソして、お泊りした時の着替え用に置いている自分のショーツを履き適当なTシャツを取り出してノーブラのまま着た。
先に着替えを終えた俺がキッチンの冷蔵庫を開けて、朝食何にしようか考えながら「朝メシ、何にする?」とミキの問いかけると返事が無いのでミキの方へ視線を向けると、濡れた髪を乾かしもしないでベッドに上がって壁に耳を当てていた。
「どしたの?なんかあった?」
「(シィー)」
ミキは耳を壁に当てたまま人差し指を立てて口に当てて、静かにする様にジェスチャーをした。
それを見て俺もベッドに上がり壁に耳を当ててみたが、何も聞こえない。
「なんも聞こえないじゃん」
壁から耳を離して問いかけると、ミキも壁から耳を離した。
「うん。何か聞こえないかな?って思ったけど、やっぱり静かだった」
「まだ寝てるんじゃない?」
時計は朝の9時前だったけど、今日は日曜日だし夏休み中でもあるので、学生なら夜型の生活をしてても不思議ではない。
「そうなのかな? ま、いっか」
「それより、朝メシなんにする? ミキが髪乾かす間に俺用意するよ」
「ありがと、何でもいいよ」
洗米して炊飯ジャーをセットして、オカズに粗挽きウインナーと目玉焼きを焼いて、ローテーブルに運んだ。
炊飯が終わるまでまだ数分残っていたので、既に髪を乾かし終えて顔に化粧水をペタペタしているミキの隣に座って、何となくリモコンでテレビのスイッチを点けて、チャンネルを適当に変えてみた。
ローカルの天気予報をやっていたので何となくチャンネルを止めて、しばらく眺めていた。
「明日の午前中から雨みたい。 雨の日はバイト行くのメンドいなぁ」
「明日雨なの?」
「うん。B県の方は今夜から雨みたいだよ」
「そっかぁ。ならまだ晴れてるし今日もお布団干した方がいいかな?昨日も沢山汗かいたし」
「そうだね。メシ食べたら布団干したり洗濯機回そうか」
「うん。 あ、そう言えばB県で思い出したけど、ヒトミちゃんにちゃんとお礼言ってなかった」
「ヒトミに? あぁ俺のことで相談してたんだっけ?って、俺も忘れてたわ。 一昨日ヒトミから電話かかって来た時に『戻ったらまた一緒に食事しましょう』ってミキに伝えといてって頼まれてた。絶対に伝えてよ!って言われてたんだっけ」
「ヒトミちゃんがそう言ってくれてたの?」
「うん。 多分、俺に対して『ちゃんとミキと仲直りしろよ!』って発破かけたかったんだと思うけど」
「そっか。ならあとでちゃんとお礼したいから私から電話かけてみるね」
「俺もお礼言いたいし、スピーカーでお願い」
「うん、分かった」
そんな話をしてたら炊飯ジャーの炊き上がりを知らせるメロディーが流れたので、キッチンへ行き二人分お茶碗にご飯をよそってから、ローテーブルで食事を始めた。
◇
食事を終えると掃除や洗濯をする為に一旦クーラーを切って窓を開け放ち、早速ベッドのシーツを剥がして洗濯機に放り込んで布団をベランダに出して干した。
因みに、窓を開けている間は聞こえてしまうかもしれないので、事前にお隣さんの話題は禁止していた。
布団たたきでボンボン叩いてて何となく気になったので、お隣さんのベランダを覗き込むと、窓は締まっててカーテンも閉め切っているが、エアコンの室外機はフル稼働で動いていた。
だからどうしたって話なんだろうけど、ミキが気にしてた様に、確かに在宅にしては静か過ぎるとは思う。ただ寝ているだけの可能性もあるけど、侵入者がお隣さんの疑いもあるせいなのか、そのことが気になり始めた。
色々と気になりだしてモヤモヤしつつも、ミキに手伝って貰いながら一通り家事を終えると、ミキがヒトミにメッセージアプリで今から通話しても良いか確認しOKと返事があったので、再びクーラーを点けて窓も閉めて、飲み物も用意して寛いでお喋り出来る体勢を整えてからヒトミに通話を掛けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます