#24 友人の決断
1回目の捕獲作戦が空振りに終わり、不完全燃焼のまま前期試験へと突入した。
鈴木の方も、相変わらず悩んでいるようだが、お互いプライベートにばかり構って単位を落としては目も当てられないので、試験対策だけは協力してキッチリ進めた。
約一週間の前期試験を無事に終えて、試験への不安とプレッシャーから解放され目前に迫った夏休みへの期待で浮つく中、再び捕獲作戦を実行した。
夏休みに入れば、帰省したりバイトが忙しくなったり、犯行が予想される日時の絞り込みが困難になることから、夏休み期間中は捕獲作戦は休止することとなり、その前に1度は再チャレンジしておこうということで、2回目の作戦実行となった。
結果としては、またもや空振りだった。
そして2回目となると、1回目よりも更にテンションが下がり、作戦中は3人ともダラけ気味になるし、ぶっちゃけ飽きてしまい、当初二人が言ってた「ワクワク」も皆無になっていた。
そんな徒労の時間を終えた後、前回同様牛丼屋で食事をしていた時に今後について相談すると、3人の意見が一致して、「捕獲作戦はもう止めよう」ということになった。
とにかく防犯対策を徹底して、犯人特定や捕獲は無理をしない程度に夏休み明けにでもまた考えようと言うことで、大人しく夏休みを迎えることとなった。
◇
ミキとは夏休みを前にして、交際開始してから1年が経った。
毎日の様に会っているし、特別記念日的な何か考えてはいなかったが、ミキの方から「1年経ったし夏休みにドコか旅行に行きたい!」と言われ、旅行自体は好きだし俺も賛成なのだが、希望の旅先を訪ねると「ヒロくんの地元に行ってみたい!」と言い出した。
地元に遊びに行くとなれば、当然宿泊は実家となるし、勿論ウチの家族にミキを紹介することとなる。
想像しただけでも地獄の様な様相に当然の如く反対するも、「ヒロくんの育った町を見たいし?ご家族にも挨拶したいし?最近ヒロくん色々あってメンタル疲れてるだろうから、ゆっくり出来る地元が良いと思ったんだし?ヒロくんだけ里帰りしたら、会えない間寂しいし?それに―――」と上目遣いで言われ、これ以上拒否することなど出来るはずも無く、8月上旬に4泊5日でミキと一緒に帰省することとなった。
因みに、妹のヒトミにそのことを話すと、ヒトミも俺たちと一緒に帰省することとなり、3人での実家までの電車旅と決定した。
◇
そして、鈴木と山根ミドリの件でも動きがあった。
7月の中旬、前期試験が明けて直ぐの頃に、学食で昼飯食べながら鈴木が話してくれた。
「俺さ、ミドリと別れないことにしたよ」
二人の交際期間はまだ短かったし、てっきり別れるものだと思っていた俺は、思わず「なんで?」と聞いてしまった。
俺の反応に鈴木の表情が硬くなったのが分かり、直ぐに失言だったと謝罪したが、鈴木は「秋山の立場なら別れて当然と思うだろうし、怒ってないよ」と言ってくれたので、その結論に至った理由を聞いてみた。
「秋山に聞いた話、直ぐにミドリに話して確認したんだよ。そしたらミドリは全部事実と認めた上で、もうそんなことはしないし、俺とも別れたくないって言ってくれてな。 ミドリが秋山にした仕打ちはショックだったけど、二人の関係はとうに終わった話で俺がとやかく言うことじゃないし、俺としては今まで通りに付き合っていくのがベターだとは分かってるんだけど、その反面で、「信用していいのか?」っていう不信感が拭えなくてな、それでずっと結論出せずにいた」
「うん、その気持ちは分るよ」
「それで、ずっとグチグチ悩んでたんだけど、いい加減疲れちゃってな、このままだと試験ボロボロで単位も落しそうだし、それで試験前に結論出そう!って思って、試験直前にミドリに会いに行ったんだよ。 それでミドリに会って顔見たら、『ようやく出来た彼女なのに別れてしまえばまた暫く一人か』って思ったら、なんだか惜しくなっちゃってな。 だから色々不安とかはまだあるけど、現状維持で続けることにしたんだ」
「なるほど。俺たちとしては「頑張れ」としか言えないけど、夏休み中に沢山一緒の時間過ごせば、良い方向に向くんじゃない?」
「そうだな。色々ありがとうな」
「いや、俺は引っ掻き回しただけで、何もしてないよ」
「そんなことないぞ。 隠さずチャント話してくれたからこそ、ミドリに対しても秋山に対しても、自分の気持ちが再確認出来た。長く付き合ってくには上辺だけじゃなくて、そういう部分が必要だと思うし、感謝してるよ」
「そう言って貰えると、少し気が楽になるな。 ずっと「言うべきじゃなかったか」って気になってたからさ」
「まぁ、これからもよろしくな」
「この歳になって、改めて友達にそんな風に言われると、なんかムズ痒い」
鈴木と山根ミドリの件は、これ以上俺が口を挟むべき話では無いし、山根ミドリに不幸になって欲しい訳でも無い。
ただ、鈴木が傷つく結果になることを心配しただけで、余計なお世話じゃないかと思いながらも、鈴木に話した。
その結果、鈴木が別れないことを選択したのなら、俺からはこれ以上何も言うことなど無い。
…無いのだが、だがしかし、そうは問屋が卸さなかった。
鈴木は、学校で会えば元気に振舞うし、会話をしてても、以前の様に下らないこと言うし、彼女である山根ミドリの話題も俺たちの前で話す様にはなっていた。
だが、俺にはその態度に何か引っかかる物を感じていた。
空元気と言うか無理をしていると言うか。
ただ「大丈夫?」と声を掛けても「ん?なにが? 調子はいいぜ」ととぼけたり何でもない風に振舞うので、俺も三島も山田も、変に気遣うよりも、鈴木の空元気に合わせて、いつもの調子で対応していた。
そして、夏休みに直前の金曜日、バイト先にて。
その日は週末ということもありレストランは忙しく、ウエイターとして客席フロアをあちこち動き回っていた。
そんな中、2人掛けのテーブルに一人で座る女性客に声を掛けられた。
「あの、すみません」と呼び止められ、「はい」と答えてテーブルを見ると食事が終わっている様なので、食後のコーヒーかデザートかな?と思いつつ要件を伺おうとすると、「ご無沙汰してます」と頭を下げられた。
「ん?」と思いながら声の主の表情を覗うと、山根ミドリだった。
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