#23 捕獲作戦
この日のバイトから、帰りはミキを自宅まで送り届けることになっていた。
10時過ぎに上がり、着替えてから待ち合わせて従業員用の出入り口を出る。
夜も遅いので本来ならサッサと自転車に乗ってミキの自宅へ向かうのだけど、この日は色々と報告があったので、自転車は置いたまま駅近くのファーストフードへ向かった。
まだ若干人通りのある夜道を腕組んで歩き、バイト先のホテルから5分ほどで到着。
店内に入り注文カウンターでアイスコーヒーを2つ購入し、テーブル席に向かい合って座り、早速二人だけの報告会を開始。
「土日に続いて今日も色々あってさ」
「元カノの件だよね?」
「うん、それもあるんだけど、ストーカーの方も動きあってさ、実は犯人から手紙来てたことが今日発覚して―――」
山根ミドリの件よりも先に、手紙の件を報告した。
手紙は見て貰う為に現物を持ってきてて、それを見たミキは、土曜日の様な怯えることは無く困惑した表情を見せていた。
「うーん、盗んだ物を弁償するのは良いとして、物は返すつもり無いってことだよね?」
「うん。山田が言うには、2万払ってでも返したくないんじゃないかって」
「やっぱり、なんだか気持ち悪いね」
「なんにしても、コレで悪戯や嫌がらせの線は消えたと思う」
「そっか。 それで、元カノの件は、どうなの?」
「それなんだけど、大学の友達で鈴木ってヤツが居て、俺と同じB県から来てて1年の時から仲が良いんだけど、そいつが先々週に合コン行って彼女出来たって聞いてたの。 それで、その話聞いた時に写真見せてってお願いしてて今日見せて貰ったんだけど、その写真に写ってたのが山根ミドリだったって話」
「写真で確認したってことは間違いないんだ?」
「うん。名前も写真も間違いなかった。 それでその鈴木には付き合ってた頃のこととか別れた当時の話も全部話して、いま鈴木は彼女と今後どうるすか悩み中って感じ」
「うーん、それはそれで凄く気不味そうだね」
「俺に対しての鈴木の態度は、今のところは変な感じでは無かったよ。 俺も話す前に「気ぃ悪くするような話だけど、それでも聞く?」って確認してから話したし、鈴木も聞いた後「話してくれてありがとう」って言ってくれてたし」
「そっか。 偶然だろうしお互い何か悪いことした訳じゃないもんね、仕方ないよね」
「うん。 それで、ミキの方はどうなの?学校の友達とかから何か聞けた?」
「学部とか分った程度で、まだ今の所は大した話は無いよ。入学してまだ3カ月の新入生だもん。目立つような派手なことはしてないと思うし」
「なるほど。実際には彼氏作ってたけど、相手が学外だし彼氏出来た程度じゃ噂にもならんか」
「そうだねぇ。 私の時も自分から言わない限りは誰も気づかなかっただろうしね」
「まぁ山根ミドリの件は妹が気にしてる程度の話で、鈴木にも彼女と話するのに俺の名前出しても良いけど、会うのは勘弁って断ってあるし、俺自身にはもう直接関係無いから案件だからね」
この日は30分程で切り上げて、ミキを自宅まで送ってから帰宅した。
ストーカー捕獲作戦に関しては、ミキには話さなかった。
ただでさえ怖がって不安になっているのに、余計な心配を掛けたくなかったから。
妹には日中に山根ミドリと手紙の件は少しだけ報告していたが、翌日には電話で詳細に報告するも、やはり妹にも捕獲作戦のことは黙っておいた。
鈴木は、翌日から授業には出ていたけど元気が無くて、授業やお昼時なんか一緒に居ても、誰も山根ミドリの話題は出さず、重い空気が仲間内に漂う日が数日続いた。
その数日の間に、俺と三島と山田の3人は作戦会議を重ねて、この週の金曜日、捕獲作戦を実行することとなった。
作戦の内容としては
俺:カメラ係&ベランダ監視&通報
三島と山田:取り押さえ要員
①当日は、学校もバイトも休むこと。不在を装う為に俺の自転車は、俺のワンルームから一番近い三島のアパートに前日から置かせて貰う。
②ベランダに面する窓の半分だけカーテンを閉めておき、ベランダからベッド周辺が見えない様にしておく。
ガラス窓は鍵は掛けないが、閉めておく。
③監視役の俺がベッドの陰に隠れて待機し、三島と山田は基本的には脱衣所&バスルームで待機。
④不在を装う為に、照明や水道のお湯などは使用禁止して、トイレも水を流す前に俺がベランダを確認してから流してOKの合図をする。
他にも細々としたところでは、動きやすい服装だとか、スマホはマナーモードにしておくだとか、会話は基本的にはスマホでのグループチャットを使用することや、食料や飲み物にスマホの充電手段等は各自待機場所に準備しておくなどを事前に決めておいた。
◇
そして金曜日。
朝7時前に三島と山田の二人はウチに来て、挨拶もソコソコに直ぐに作戦の準備に取り掛かった。
事前に作戦内容や準備は決めてあったので、二人は声を出さずに作業を進める。
俺は、通常なら金曜日は2コマ目に合わせて9時頃に出るので、それまでは普通に過ごす。
シャワー浴びて、朝メシ食べて、トイレにも行って。
そうして9時になったら、ベッドの陰でタオルケットを被って寝転ぶ様にして身を潜め、あとは只ひたすらじっと待つ。 三島と山田はその間は、お風呂場に籠ってゲームとか読書しながら待機をしていた。
部屋には男が3人も居るのに、静かな時間が続く。
俺は一人で寝転んで監視しているので、あまりにも退屈で、途中何度もウトウトしてしまったが、何とか夕方の5時まで監視を続けた。
因みに、俺がトイレに行く時は、監視役を山田に代わって貰い、用を済ませると再び俺が監視役に戻った。
昼の部が終わると、一旦小休憩に入り、引き続き夜の部も開始した。
夜の9時になり、「今日はもう来んやろ」と山田がこの日の作戦終了を告げると、三島がお風呂場から出てきて背伸びしながら「腹減ったぁ」と漏らし、俺も起き上がって体のコリをほぐしながら「どっかメシ食べに行くか」と提案した。
結局この日は犯人は姿を現さなかった。
部屋の施錠を確認してから3人で近所の牛丼屋へ向かった。
途中歩きながら会話をするが、3人とも疲れているのかテンションが低かった。
牛丼屋に入ると3人とも牛丼大盛を購入し、一番奥のテーブル席に陣取った。
3人ともテンション低いまま食事を済ませ、食後はスマホをいじりながらしばらくダラダラしていると、三島が話し始めた。
「来週もやるのか?」
「どうしよっか…、ぶっちゃけ、もう犯人来ない様な気もするんだよな」
「そやなぁ、月曜の手紙が最後の気もするな」
今日一日が空振りに終わったことで、捕獲作戦実行前の高揚感が3人ともすっかり霧散していて、考え方も消極的になっていた。
「もうすぐ試験あるし、授業サボるのに限界あるしな」
「今日1日で犯人捕まえること出来てたら良かったんだけどな」
「じゃあ来週は一旦休止にしとこか」
「了解」
「おっけ」
店を出て、山田とはその場で解散し、俺は自転車を回収する為に三島と一緒に三島のアパートへ向かった。
三島と歩きながら、鈴木の事を話した。
「アッキー、なんか聞いてる?」
「いや、あれからあの話題は全然してないよ」
「そっかぁ、アッキーにも話してないかぁ。 いや俺さ、鈴木に色々言っちゃったじゃん?だから鈴木がその辺のこと俺には話してくれないのは分かるんだけど、でも結構心配はしてるんだよな」
「そうだな。俺も心配だけど、結局は本人が決めるしかないしな。俺としては鈴木の結論待つだけだし、続けるにしろ別れるにしろ、どちらの結論でもこれまで通りの付き合いを続けるしかないとは思ってるよ」
「俺もそうだな。でも下手に気を遣うのもアレだし、ズバズバ言うのも傷つけそうだし、色々大変そうだけどな」
「三島、結構繊細なんだな。意外だわ」
「いや、そりゃそうでしょ。 流石に友達凹んでたら気ぃつかうよ」
三島のアパートに着くと、その場で「今日はありがとうな」と言って別れ、まだ10時だったのでミキに電話を掛けると、『丁度バイトを上がって着替えているところ』だと言うので、「家まで送るよ。直ぐ行くから待ってて」と伝えて、猛スピードでバイト先のホテルへ向かい、合流してからミキの家まで送った。
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