#21 手紙
三島と山田も封筒を見に俺の傍までやってきた。
「宛名すら無いな」
「カミソリレター?開けて見たら?」
「お、おう…何か怖いな。 とりあえず部屋に戻ろう」
ローテーブルの所へ戻り、ハサミを取り出して封筒の端を慎重に切断した。
口を開く様にして中を覗くと、手紙らしき紙と1万円札が入っていた。 カミソリ刃らしき物は見当たらない。
口を開いたまま封筒を逆向きにして、中身を落とす様にテーブルに出した。
1万円札が2枚と手紙らしき物が1枚入っていた。
「万札?」
「手紙になんて書いてあるん?」
3つ折りにしてある手紙を開くと、パソコンで印字したであろう活字の文章が書かれていた。
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秋山様
この度は、申し訳ございませんでした。
弁償します。
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書かれていたのは、これだけだった。
「こわ!?ナニこれナニこれ!」
「送り主は、やっぱストーカーってことになるんか?」
「そうだろうな…」
謝罪と弁償する旨のみの短くて簡単な文章だが、A4の用紙にそれだけしか書かれておらず、空白の多い手紙がビジュアル的に俺の恐怖心を煽っている様に見えた。
「因みに、2万っていうのは被害額と合うてんのか?」
「多分。弱冠おつりが出るんじゃないかな」
「なるほど。手紙の送り主は何が盗まれとるか分かっとるってことやから、やっぱ盗んだ犯人と手紙の送り主は同一人物やろうな」
「…俺ムリ!こういう怖いのムリ!」
動揺しつつも冷静に分析する山田とは対照的に、三島は耐えられなくなったのか、オーバーアクションしながら騒いでいる。
「鈴木と元カノの話といい、ストーカーといい、秋山は不幸を呼び寄せる体質なのかもしれへんな」
「マジで止めてよ、ホントに困ってんだから」
「悪い悪い。 それで、今分かってることだけでも聞かせて欲しいんやけど」
「うん」
「先週盗まれたんが金曜って言うとったっけ?」
「金曜の夜に歯ブラシとグラスが無くなってることに気が付いたんだけど、その日の朝学校行く前に歯ブラシ使った憶えがあったから、金曜日の昼間学校行ってる間か、夜バイトに行ってる間に盗まれたんじゃないかって思う」
「靴とか傘もその時一緒に盗まれた?」
「靴と傘と帽子が無くなってるのに気づいたのは土曜日の朝だから、多分そうだと思う」
「そうなると、その時に盗まれた物の弁償やろうから、金曜日以降にこの手紙が投函されたんか」
「そうだな、そういうことになるな」
「この手紙はさっき初めて気付いたんよな? 土日の間は気づきひんかったん?」
「俺は全然気づかなかったね。 そういえば、妹が探偵みたいに玄関の下駄箱の現場検証とかしてたから、何か憶えてるかも」
テーブルの上に置いたままの封筒、万札、手紙をまとめて1枚と手紙の文章のアップを1枚スマホで撮影し、妹に「これが玄関の郵便受けに入ってた」とメッセージと画像を送った。
直ぐに通話着信があり、電話に出ると「今日入ってたの?一昨日ボックスの中も一応見たけど封筒は無かったよ?」と教えてくれた。 「そっか、わかった。ありがとう」と答えてから通話を切り、山田に「どうも土日には無かったみたい。今日学校行ってた間に投函されたっぽいね」と教えた。
「あと気になるんは、普段から玄関の鍵は掛けとるんよな? 窓の方は?」
「玄関は毎回施錠してるけど、窓はマチマチ。自分でもハッキリ憶えてないんだよね」
「なるほど。実際に盗まれてる訳やから、先週金曜は窓が開いてて忍び込める状況やったん思われるけど、流石に今日は窓も施錠してたと」
「うん」
「空き巣だったら通報するしか無くない?」
「でも弁償されてるし、金目の物目的じゃないと、捜査とかまではしてくれないんじゃない?」
「そうやろなぁ。ストーカーっていうんも確たる証拠は無いみたいやし、警察に行っても相談だけで終わりそうやな」
「っていうかさ、空き巣にしてもストーカーにしても、普通弁償なんてするか?初めて聞いたぞ、盗んだ物弁償するストーカーとか」
「確かに言われてみれば、弁償っていうのは謎過ぎるな」
「盗んだんは良いけど、後になってビビって、警察とかに通報される前に弁償したとかちゃうん?」
「それだったら、盗んだ物返せば良くない?」
「確かに」
「う~ん…」
「多分、2万払ってでも返したくなかったんやろうな。 やっぱストーカーの犯行の可能性が高そうやわ」
「やっぱりそうなるのかぁ…俺のパンツでナニをしようってんだよ」
「臭いは嗅いでるやろな」
「それは絶対やってるだろうな」
「後は、自分で履いてみるとか、頭から被るとか? まぁ、パンツおかずに確実にオナってるやろな」
「ヤメテヤメテ!マジキツイから!」
ミキが俺のTシャツでそれっぽいことしてた話の時は、笑える余裕があったけど、ドコのダレかも知らないストーカーだと、キモイどころの騒ぎでは無い。
「てっとり早い解決方法としては、引っ越すか、犯人捕まえて警察に突き出すか、それくらいしか思いつかへんな」
「引っ越しはキツイなぁ。 引っ越しできるだけの金に余裕ないし、親に事情話せば援助してくれるだろうけど、多分妹との同居が条件になると思うし。 妹が大学合格した時、親から妹と同居して欲しいって言われて一度断ってるから、ストーカーだとか空き巣の話聞いたら、もっと強引に同居させようとするだろうな」
「妹と同居くらい良いじゃん。実家で一緒に住んでたんだろ?」
「そうだけどさ、彼女連れ込めなくなるじゃん」
「じゃあやっぱストーカー捕まえるか?」
「危なくない? 逆ギレして刺されたりしそうじゃん」
「部屋に入れなければええやん。 窓はしっかり施錠しといて居留守使って不在に見せかけて、ベランダに入って来た所を写真なり動画で撮影すれば証拠になるやろうし、それ持って警察行けば、少なくとも不法侵入で動いてくれるやろ」
「うーん…」
「そもそも、秋山はストーカー怖いとか言うて逆ギレさせたら刺されるかもってビビってるクセに、今後もこの部屋に彼女連れ込むつもりなんか?」
「そんな言い方されちゃうと、ぐうの音も出ないけど」
「俺達も協力するから、やってみんか?」
「俺達って、俺もかよ!」
「ええやん。助けたろうや」
「まぁ良いけど、相手は女なんだよな?」
「分からん。妹は女性だと思うとは言ってたけど」
結局、山田の発案から三島も手伝ってくれることになり、その作戦について相談することになった。
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