#04 次の被害
6月に入り、謎の紛失はトランクスだけでは済まず、他にもいくつか紛失しているのが判明しだした。
2つあったハズのお揃いのグラスが1つだけに減っていたり、洗面台に置いていた歯ブラシが俺のだけ消えていたことに昨夜気が付いた。
グラスや歯ブラシは、何かの間違いで気づかずに処分しちゃうことも有りえるので、パンツの時ほど深く考えることは無く「あれ?」と思う程度だったが、翌日の今朝、下駄箱からジョギング用のシューズが1足消えているのに気付き、ただ事では無いぞとようやく危機感を感じた。
土曜日は学校もバイトも休みなので、毎週昼頃から彼女と会うのだが、彼女と会う前の午前中は1時間程のジョギングが毎週の習慣になっていた。
今朝も8時過ぎにジョギングに出掛けようと下駄箱の扉を開けると、いつもジョギングシューズを置いていた位置には何も無く、ポッカリとスペースが空いていた。
あれ?仕舞い忘れてた?と玄関内をキョロキョロ見渡すが、土間には昨日履いてたスニーカーとクロックサンダルしか置いてなくて、ジョギングシューズは見当たらなかった。
普段使用していない靴は下駄箱の中で並び順というか配置を決めて収納しているので、下駄箱を開けて見ればどの靴が無いか一目瞭然なのだけど、普段は同じ靴やクロックサンダルばかり履いているので、下駄箱を開けるのはジョギングや彼女とデートする時などの週末に限られていて、先週の日曜日の夜に靴を仕舞ってから今日まで、ジョギングシューズが消えたことに気が付かなかった。
流石におかしいと思い、ジョギングは中止して他にも何か無くなっていないか、確認することにした。
玄関では、他の靴は全部あったが、傘が1本消えていた。
脱衣所では、正確な数は覚えてないので自信は無いが、ハンドタオルの数が減っている気がした。
次にクローゼットの中身を全部出してベッドの上や床に並べて確認した。
最近使ってなかった帽子と、お気に入りのTシャツ1枚が無くなっていた。帽子は最後に使ったのが何カ月も前で、まだ寒い冬だったと思うが、Tシャツは先週の月曜だったか火曜に学校に着ていった記憶がある。
食器棚も同じように、中身を全部テーブルに並べて確認。
先日消えたグラスの他に、フォークとスプーンの本数も減っている気がする。
傘、帽子、Tシャツは、間違いなく無くなっている。
タオルや食器なんかは、正確な数を把握していないので、あくまで『減ってる気がする』程度。
それと、週末よく泊まっていくミキが置きっぱなしにしている彼女用の歯ブラシとか化粧水とかコットンとかその他モロモロも念のため確認したが、特に異常が見られなかった。
ココまで確認してから、もっとも重要な確認を失念していた事に気が付いて慌てて確認。
銀行の通帳&印鑑だ。
そして、財布の中身。現金だけじゃなく、免許証やカード類。
通帳と印鑑は、無事だった。
まぁ、この2つは普段から持ち歩かずに隠す様にして仕舞ってあるし、場所はミキや家族にも教えていない。
財布の中身も、概ね無事だ。免許証やカードもちゃんとある。
現金に関しては、前に降ろしてからいくら使っていくら残っているのか、正確な金額を把握してないので自信ないが、
他にも、腕時計やノートPCやゲーム機にソフトなんかの金目の物を確認したが、無くなった物は無さそうだった。
以前トランクスが無くなった時以上にモヤモヤする。
というか、ムカついてきた。
パンツや歯ブラシなんか金額的にはどうってことないが、ジョギングシューズや帽子にTシャツはソコソコの値はする。
しかも、どれも自分で稼いだお金で買ったお気に入りで愛着あるし、また同じモノを買うというのも悔しいし、だからと言って諦めて手元に無いままというのも悲しいし、それが盗まれたせいだと思うとムカつく。
これはもう、部屋の中で失くしたとか悠長なこと言ってられるレベルじゃないだろう。
やはり盗まれたと考えるべきだ。
つまりは、犯人が居る。
金目の物や現金を狙わずに、俺が普段から使用している身の回りのグッズなんかを狙う犯人が。
Tシャツや帽子なんかは、デザイン的に気に入って欲しくなって盗むということも考えられるが、グラスや歯ブラシとかだと、そんな理由はありえないだろうしな。
容疑者の筆頭は、やはり彼女の『佐々木ミキ』になってしまう。
俺の部屋に最も多い回数来ているし、部屋の合鍵を持つ唯一の人物で、俺が居ない時でも自由に出入り出来る。
平日夕方は、毎日の様にバイトのシフトが被ってるけど、日中の学校の時間は別だ。
一応はお互い授業がある時間を把握してるので、学校サボれば俺の留守を狙うことは可能だ。
合鍵を渡したのは、1年の冬に俺が風邪引いて熱出してダウンした時に、一人暮らしの俺を心配して看病とか買い物とかして助けてくれて、「今回は発熱程度だったけど、もっと深刻なピンチになった時の為に合鍵を預からせて欲しい」と彼女の方から要望されて、2つ返事でその場でスペアキーを渡した。
彼女に渡して半年も経ってないし、それ以降俺が病気でダウンしたことは無いし、合鍵を使って留守中に部屋に入ったとの報告は1度も無く、俺が把握している限りでは、合鍵は1度も使用していないハズだ。
まぁあくまで「毎週ウチに来ている」「合鍵持っているから俺が居なくても忍び込める」「ドコに何が仕舞ってあるのか分かっている」という状況的な話だけであり、本音は疑いたくないという気持ちがあるし、トランクスの時に本人も「知らない」と否定している以上は、証拠も無く決めつける訳にはいかない。
因みに、彼女とは交際開始以降ほぼ毎週土曜日にデートに出掛けたり俺の部屋で過ごしたりしてて、以前は泊まって行くことは滅多に無かったが、俺が風邪でダウンして看病に来てくれて以降のこの数か月は毎週俺の部屋に泊まる様になり、翌日日曜日の夕方や夜まで一緒に過すパターンが多く、要は小物程度ならバッグとかに忍ばせれば、簡単に盗むことが出来るし、シューズや傘なんかの大きい物も、俺の留守中に忍び込んで持ち帰ることも可能である。
疑わしい部分はゼロでは無く、でも決定的な証拠などがある訳でも無く、もし彼女が犯人だとしても、俺が居る時に盗んだのか、不在時に忍び込んだのかは不明だし、そもそもそんなことする必要があるようには思えず、悪ふざけで悪戯するような人では無いし、動機もイマイチ分からない。
彼女の性格からして、意図的に黙って持ち帰るというのがどうにもピンとこない。
最悪そう言ったことがあったとしても、返すつもりで借りて「言いそびれて黙って借りちゃったけど、返しておくね。ありがとうね」とか事後報告くらいはするだろう。
まぁ根本的な話として、使用後の洗ってないパンツとか借りて行く理由なんてロクでも無さそうなので、そんな風に事後報告なんてしないだろうけど。
パンツや歯ブラシはアレだが、Tシャツとか帽子なんかは「コレ欲しい」と彼女に言われれば、いくら自分のお気に入りだったとしてもあげるし、新品を買ってプレゼントしたっていいくらいだ。
兎も角、念のため、疑っていることを悟られないようにコチラからはパンツ以外にも物が無くなっていることは話さずに、ウチに来てる間の様子を注意深く観察するようにしようとは思う。
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