#03 彼女との馴れ初め



「秋山くん、夏休みは実家に帰るの?」


「いや、教習所通い始めたし何とか夏休み中に免許取りたいからずっとコッチだよ」


「へー、じゃあシフトも夏休み中はずっと今のペース?」


「そうだね。免許取る為の費用、親に借りてるし、その分も稼がないとだしね」


「ふふふ、なら良かった。 秋山くん居てくれた方が仕事中気疲れしないし、長期不在とかなって別の新人入って来るのもなんかヤダし」


「もしかして、佐々木さんの中での俺の評価って、結構高い?」


「そうだよ? 他の先輩とか社員さんとか気ぃ使うし、色々押し付けて自分は楽する人とか居るしね。秋山くんだけだよ、いつもフォローして助けてくれるのは」


 ぶっちゃけ、好意があったからこそ仕事中は意識していつもフォローするようにしてたし、それをこんな風に評価してくれてたのが嬉しかった。

 そんなチョロい俺は調子に乗ってしまい、バイト以外でも彼女と遊びに行きたいと、デートに誘ってみた。


「あの、もし良かったらだけど、夏休みに入ったらバイト休みの日とかにどっかに一緒に遊びに行かない? 俺、こっち来てから市外とかに出掛けたこと無いし、観光地とかに日帰りで小旅行とか行ってみたくて……無理にとは言わないから、遠出がイヤなら近場でご飯食べに行くとかでも良いし…」


 思い付きの勢いでデートのお誘いを始めたものの、話しながらも「ずうずうしかったかな」と自信が無くなってしまい、なんだか言い訳してるみたいな言い回しになってしまったが、彼女の反応は俺の予想と違ってた。


「えええ!? 私と二人で!?」


 目を見開き心底驚いた表情だ。


「あーうん…二人で」


「私で良いの??? 佐々木くんと二人きりで観光地って日帰り旅行だよね?コレってデートのお誘いだよね? 本気で私でいいの???」


「具体的な行先とか日程も全然決めてないし、そんなに大袈裟に反応されるとビビるんだけど…、でも、良ければどうかな?」


「私…男の人にデートに誘われた経験無いし、私の方こそビビってるんだけど…」


「マジで!?佐々木さん、男とデートとかしたことないの?」


 普段の会話から、彼氏が居ないことは知ってたが、美形で話しやすい人柄でモテそうなので、それなりに男性経験があるものだと思ってたから、かなりビックリした。


「無いよ…そうハッキリ言われると結構凹む…。 高校も女子高だったし中学は共学だったけど部活漬けで男子の友達すら全然居なかったし…。 最近はナンパとかは有るけどそういうのはいつも無視してるし、合コンも1度だけ行ったことあるけど全然盛り上がらなくてそれっきりだし、実際のところ男の子の友達なんて秋山くんだけだよ…」


 コミュ力高く見えてたし、俺とは初対面の時から普通に喋ってたから、普通に男性の交友関係はあるだろうと思ってたけど、これは箱入り娘とかそんな感じなんだろうか。

 っていうか、コレってライバルゼロで滅茶苦茶チャンスじゃないのか?

 そして、この流れって、告白するのに良いタイミングじゃないのか?


 いつかは付き合いたいとは考えてたけど、この瞬間までいつどうやって告白しようとかは全然考えていなかったが、「コレはチャンスだ!」と思った俺は、襟を正す様に背筋を伸ばして座り直して、彼女の顔を見つめながらマジトーンで告白した。



「俺は佐々木さんの事が好きだよ。 お喋りしてて凄く楽しいし気が合うなってずっと思ってたし、同い歳なのに大人っぽくて綺麗だし、仕事中だって責任感ある佐々木さんのことは俺も凄く頼りにしてるし、こんなに魅力的な人が彼女になってくれたらってずっと思ってた。 だから、俺の彼女になって下さい。お願いします」


 そう言ってイスに座ったまま頭を下げると、彼女は「うそ…」と呟いて黙ってしまった。


 数秒ほど頭を下げたままだったが、よく考えてみれば恋愛に慣れていないと言っていた彼女がいきなり告白されてその場で返事をすることなんて無理な話だと気づき、慌てて「いきなりごめん!返事はよく考えてくれてからで良いから! 遊びに行く話も無理なら遠慮なく断ってくれて良いし」と付け足すが、既に仕事の時間になっていたことに気が付き、二人で慌ててフロアに出て、仕事を開始した。


 この日の仕事は俺も彼女も動揺しまくりで、お互い気になってチラチラ視線が合うのだが、仕事ではミスばかりしてボロボロで、家に帰ってからは「仕事前に告白したのは失敗だった」と自分のやらかし具合に凹みながらも、彼女のことばかり考えていた。




 翌日も、学校に居る間も彼女のことばかり考えてて、バイトに行く頃には、早く答えを聞きたい気持ちと、断られるのでは無いかという不安で、胃が痛くなるほど心の中がぐちゃぐちゃで、それでもやっぱり彼女に会いたくて、いつもと同じ時間にバイト先に向かった。


 仕事前にロッカールームで着替え終え休憩室に行くと、前日の告白した時と同じように彼女と二人きりとなった。

 空気が重かったが、自分が告白したせいなので申し訳無さで気落ちしていると、彼女の方から話しかけてくれた。



「秋山くん、昨日のことだけど…」


「う、うん」


「お付き合いの返事は、少し待って貰ってもいい?」


 これは、お断りされた訳では無いよな?

 前向きに検討して貰えていると言うことだよな?


「もちろん。 急かすつもりは無いから、ゆっくり考えてよ」


「ありがと。 それでデートの話なんだけど…」


「うん」


 やはりこういう恋愛事には慣れてないのか、いつものハキハキ喋る感じでは無く、自信なさそうに話しを続けている。


「夏休みに入ってからって話だったけど、少し早めて今度の土曜日とかどうかな? もし教習所とか他に用事があるなら、来週とかでも」


「今週土曜日で大丈夫!是非!」


「ホント? 良かったぁ」


 俺がデートの日程をOKすると、ようやく笑顔を見せてくれた。

 その様子から俺の方も緊張が和らいで、会話を続けた。


「夏休み前の週末に拘る理由でもあるの?」


「えっとね、1度はデートとかして、普段の秋山くんのことをもっと知ってから返事したいと思っててね。 でも夏休みまで待ってたら私の方がメンタル的に持ちそうになかったから、なるべく早いウチにお出かけデートしたいと思って、それで今週末にしようと思ったの」


「なるほど」


 コレって、俺の告白に対して、真面目に考えてくれてるってことだよな。

 それに俺に対するバイト中の評価は良いみたいだし、こうやってお喋りする時間も楽しそうにしてくれてるし、つまりデートでは普段通りに過して、嫌われる様なことをしない様に注意すれば、きっと上手く行くはずだ。



「行先とかどうしようか? 秋山くんが行きたい所とかあれば」


「特にココがっていうのは無いけど、美味しい物食べたいよね。 A県民として何かオススメとか無いの?」


「だったら!少し遠いけど―――」



 なんだかんだと気まずい空気は無くなってて、デートの計画の話題で盛り上がるも、直ぐに仕事開始の時間が来てしまい、二人とも慌ててフロアに出て仕事を開始した。


 この日は、昨日のような動揺は無く、彼女もそれは同じだったようで、二人ともミスなく仕事を終えることが出来た。





 ◇





 彼女は、初めてのデートに普段バイトに来るときとは少しだけ雰囲気が違うお洒落なコーディネイトで来てくれて、彼女が薦めてくれた海沿いの観光地に出掛け、俺から手を繋ぐと嫌な顔一つしなくて、お互い笑顔の絶えない楽しい時間を過ごし、夕方市内に戻って来てから彼女に誘われて入ったファミレスで告白の返事を貰い、晴れて恋人同士となった。











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