第40話 おれ、幼女。目が覚めたらボス戦だった。5


『簡単な話さ。俺はお前で、お前は俺だ。簡単にいえばアクセスキーってやつが俺なのさ』


「じゃぁ、お前が俺の身体を奪ったってことか?」


『勘違いしないでくれ、俺は何もしてない。ただ、お前の中に入れられただけさ。まぁ、そのせいで世界が今ぶっ壊れてるんだけどな』


「どういうこと」


『俺はさ、世界を変える力を持っているだよ。だから、アンリミテッドの連中に狙われる』


「アンリミテッド?」


『ピンクの髪のべるべっていう嬢ちゃんがお前を襲っただろ? あいつらはアンリミテッドっていうのさ。俺を使って世界を自分たちの思い通りにしようとしている奴ら。まぁ俺にとってはどっちでもいいが』


「つまり。お前を使えば望みが叶うっていうことか?」


『その通り、子どもにしてはずいぶん賢いじゃないか』


「あんたおれの中身を知ってるだろう」


『おっと失礼、まぁ早い話。この俺を使えばお前は望むものをひとつ叶えられる。叶えられるのはお前が代償を払えるものに限るけどな』


「代償?」


『世界を変えのだから、変えたら現実と齟齬が起きるだろう? だから、辻褄を合わせて補填をするために代償が必要なんだ。強い力を望めば、それだけ必要とする代償は大きくなる。お前は何を望む?』


「俺は……」


『男の身体に戻るっていう願い叶えられるぞ?』


「えっ……」


 俺は目を見張って見た。


 つまり、それはすぐに俺の身体を元に戻せるってことか?


『大した願いじゃない。代償も軽い。そしてお前が何よりも欲しているものだ。だから俺はお前の姿をしている』


「元に戻れば、いま戦っているあの白い球体からみんなを守る事はできるの?」


『それは……無理だな』


「じゃぁ、いい……

 代わりにみんなを守れる力をくれ」


『それは代償が大きいぞ。お前……男に戻れなくてもいいのか?』


「男に戻る方法は自分で見つける」


『願いは一度っきりだぞ?』


「構わない」


『わかった。お前の願いを叶えよう』


 男の俺が指をパチンっと鳴らすと俺の姿が素っ裸に近い、いや、服が消え去り光のベールに包まれ青色に輝いた。俺は胸と自分の股を隠すように腕で覆って前屈みになる。


「な、なんだこれ……」


『ほう……恥ずかしがる姿も中々悪くないな俺』


「な、なに冷静に観察してるんだよ!!」


『お前こそ、そんなにぼーとしてていいのか? もう始まってるぞ』


「へっ?」

 俺の頭上から大量の水が落ちてくる。

「ふがっごぼごぼごぼごぼぷはっ!! な、なんで大量の水が!?」

『頑張って生き延びろよ』

「どういうこと!?」

 俺は必死になって掴んだ四角い箱にしがみつく。

『力が欲しいだろ。だったら、この窮地くらい簡単に乗り越えてみろ』

「意味わかんない!」

『だったらさっさと変身するんだな』

「変身!?」

 俺は掴んでいた箱の上に立つ。

 箱だと思っていたのは宝箱だった。

『はい俺に続けて言って、ランクアップ、オープン、チェンジ』

「ら、ランクアップ……オープン……チェンジ」

『恥ずかしがらないで、もっと大きな声でハキハキと』

「ランクアップ! オープンっ、チェンジ!」

 俺の言葉に反応し、宝箱が開く。上に乗っていた俺はひっくり返り水の中に落ちた。しかし、実際には落ちてはいなかった。俺の足はベールに包まれ、水面の水を切って滑っている。

 そして開いた宝箱からは噴水のように次々と銀色の星が空へと飛び散り、真っ白な空間を星が輝く夜空に変えていく。

「な、なにこれ!?」

『さぁステップを踏んで、ワンツー、ワンツー』

「えっ!? えっ!?」

『もっと可愛くっ! 愛らしく! 笑顔を忘れずに サンハイっ!』

「こ、こう?」

『いいね、いいね。そのポーズ! ズキューンとハートが撃ち抜かれちゃうよ。じゃぁ最後に決め台詞言ってみようか』

「決め台詞っ!?」

『ヒーローが登場するには決め台詞がないとダメでしょ。力が半減しちゃうよ』

「それはダメ!」

『さぁ、決めて』

「わ、わかった!」

『華麗にしなやかに、あざと可愛く。元気は鬼丸。あなたの心にズキューンと撃ち抜くハートの光!』

「うぅ……華麗にしなやかに、あざと可愛く。元気は鬼丸。あなたの心にズキューンと撃ち抜くハートの光!」

『かわいいは世界を救う。私を愛してくれなきゃダメだよ。にゃんにゃん!』

「か、可愛いは世界を救う。わ、私を愛してくれなきゃダメだよ。にゃん……?」

『ちっ、最後まで言わなかったか』

「ねぇ、いま舌打ちしたよね。あなたいま舌打ちしたよね!」

『俺、鍵だからそういう難しいことわかんないな〜』

「こ、このー! そう言って本当は決め台詞なんていらないんでしょ!」

『ばっかやろ! 日朝の少女ヒーローには口上は必須なんだよ』

「ニチ……アサ?」

『こっちの話だ』

「どういうこと!?」

『さぁ最後だ。かわいいの限界を超える光の戦士』

「もう、後で説明したよね。かわいいの限界を超える光の戦士っ! ……かわいいの限界を超える光の戦士?」

『にゃむキュート!』

「にゃ、にゃぁむキューっト!」

 俺の目の前に巨大な鍵穴を通り抜ける。俺は思わず目を瞑り、次に目を開いた時

、宙に放り出され元の岩場の場所へと足が着いた。

「この格好は……」

 俺は自分の姿を見た。

 いつもよりふんわりと長い髪、半袖のシャツくらいしかない袖と身体にピッタリ密着すると上着。指が抜けて防寒性のないオシャレ手袋。履いたことのない踵の高い靴。そして何より、膝より上の丈の短いスカート。思わず、スカートの裾を押さえて前屈みになってしまう。そうすると後ろも見えそうなので、お尻も押さえる。

「うぅ……は、恥ずかしいよ」

 なにこれ、テレビでアイドルとかが着てる派手な舞台衣装と変わんないじゃん。




『気のせいか俺の画面に猫耳の魔法少女みたいな子が映ってるだけど』

『気のせいじゃねぇな。俺の画面にも見えるわ』

『これマジ? なんて言うプリキ◯ア?』

『知らないプリキ◯アですね』

『キ◯アコスモ?』

『お前、コスモとこのおっさんを一緒にするな!

 で、でも可愛いから特別、今回のことは許してあげる。

 べ、別にこんな魔法少女モドキ可愛くなんかないんだからね!』

『突然のツンデレ』

『青を基調にした服にツインテールかわいいじゃん』

『推します』

『可愛いなぁ〜。娘に欲しい』

『俺は嫁に欲しい』

『俺は妹になってお兄ちゃんって呼ばれたい』

『俺はあのヒールで踏まれたい』

『お前ら冷静に考えろ中身おっさんだぞ』

『俺はママになってバブバブ甘えさせて欲しい』

『俺はペットの猫のふりをして欲しい』

『あの格好でにゃんにゃんされたら萌え死ぬわ』

『天才やな』

『お前らもう一度言うけど冷静に考えろ中身おっさんだぞ』

『それが何か問題でも?』

『可愛いに性別は関係ないんだぞ?』

『やーい、お前の家、ポリコレ屋敷!』

『しっ! いけません。あんなところに石を投げてはいけません!』

『いや、でも……おっさんだろう?』

『お前は可愛いと思わないのか?』

『それは可愛いに決まってるだろう』

『ならなにも問題ないな』

『確かにそうだ。すまん。俺が間違ってたわ』

『洗脳されてて草ァアアアア!』

『いけません! こんなところ見てはいけません!』

『こうして新たな性癖に目覚めるのであった』

『こっちにこいよぉ、こっちにこいよ゛ぉ゛』

『ミイラ取りがミイラに』

『そうして世界に新たな幼女TSおじさんっと言う性壁が目覚めるのであった』

『覇権とったわ』

『馬鹿、まだサブカルだ』

『お前らなんの話をしてる?』

『これからの時代の話さ』

『規模がでかい』

『日本の夜明けぜよ』

『開国まだですかね〜?』

『すまん、いま来たばっかりで状況わからないだけどどうなってるの?』

『ついに時代が俺たちに追いついた話をしていた』

『すまん。わからん』

『ロリおじさん魔法少女、腋ぺろぺろ可愛ヤッター覇権から世界征服←今ここ』

『すごくわかりやすかったありがとう』

『なぜそれでわかる』

『わたしにもわからん』

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