第14話 おれ、幼女。ダンジョンに行く。4
そして次にの瞬間。薄く目を開くと、耳にはにぎやかな人の声が聞こえ、俺はいつのまにかダンジョンの入り口に立っていた。
突然現れスライムの体液にまみれた俺に隣の鎧を着た男性がギョッとして驚く。
「あの、すみません」
声をかけるとその男性は周囲をキョロキョロ見回した。自分は声をかけられたとは思わなかったのだろう。
「財宝を鑑定する場所ってわかりますか」
「ええっとあそこかな」
俺の尋ねたことに、男性は動揺しながらもしっかりと答えてくれた。俺は体液で重くなった服のまま歩いた。
周りからは「どうしたの」という風に見られが、それはそうだ。幼女がスライムの体液まみれで歩いているのだ。不思議に思わない方がおかしい。
しかし今の俺に周囲の視線など痛くない。収穫ゼロからお宝を見つけられた、それだけで運がいい。願うことなら、この財宝が価値があるものだとよい。
鑑定士のいる店は少しばかり列ができていた。これは時間がかかるなと思ったが、考えていたよりも早く順番がきた。そして店から出てくる人はなぜか男だけで、出てくるたびにガックリと肩を落としうなだれている。
何があったんだ。
俺の番がきて扉を開ける。チリリンと扉の上部に取り付けられた鐘が鳴り中に入った。店内は分厚い夜空の色をしたカーテンで覆われ、中は見えなかった。俺が進もうとすると、店の入り口でにゃぁと猫が鳴き俺を呼び止めた。魔女の帽子と小さなマントをつけた三毛猫が台の上に乗っていた。隣には『鑑定受けたまります。料金はここでお支払いください』と書いてある立札が見えた。俺は鑑定料を払う。一人、焼肉くらいのお金を取られた。まぁこの装備を売れば簡単に元は取り返せる料金だ。猫は口でお金を受け取ると、隣の籠にお金を入れ、ぴょんと台から飛び降りて、後ろを振り返ると俺についてこいと言うよに「にゃぁ」と鳴いた。俺は猫の後ろをついて行った。
店は思ったよりすっきりしていて店内にはダンジョン産のアクセサリーや装備が陳列されていた。そして奥の番頭台に一人の幼い顔をした女性が畳の上に座っていた。
「ほら。見せな」
片目だけの金のメガネをつけ、口にキセルをくわえ、ふかす。甘い匂いが漂ってくる。
髪は薄紫色の銀髪に床までたれるツインテール。顔に影ができるほどツバの広いとんがり帽子をかぶり、とんがった帽子の先は少しギザギザと折れていた。白いブラウスに黒いマントを羽織り、信じられないほど豊満な胸を重そうに机の上に乗せていた。健全な男なら即、悩殺される。
当然、俺もその胸を見てごくりと唾を飲み込んだ。
で、でかい。
男の頃ならその柔らかな谷間に挟まれたいと夢にまで思うだろう。
しかし、今は自分では本能的に自分の胸と比較してしまう。
俺は自分の胸を触った。
さすさす。
うん、ない。
何を張り合っているんだろう。
恥ずかしい気持ちになりながら、持ってきた装備品を机の上に置いた。
「お願いします」
「どれどれ、ほほう。これは」
鑑定士はじっくりと観察するように装備品を見た。反応は俺の見たところ悪くない。中々食いつくようにみている。これは期待が膨らむな。
それにあれほど豪華な宝箱から出たものだ。価値がなかったら神様のいたずらが過ぎるというものだ。
「うん。ただのコスプレ用の猫耳と、尻尾だな」
うん? ただのコスプレ用の猫耳と尻尾?
「えっ……」
俺はその場で口を開けて固まった。
「わしも驚いている。これまで身体を目当てに店を訪れる奴が多いが、こんなものを持ってきてまで、関係を取り付けたいと思った奴はお前が初めてだからな。それも幼女だし」
俺は番頭台に手をつき訴える。生活がかかってる。これが売れないと本当に困るのだ。
「冗談はいいから、よく見てくれ。普段目にすることのない宝箱に入ってたものなんだ。何か加護がついていたりしないのか?」
店主は再びじっと装備を見つめる。
しかし、すぐに止め、装備を持ったまま両手を広げた。
「いや、ただの黒の猫耳カチューシャと同じ色の猫尻尾だな」
「嘘だろ」
俺はその答えに言葉を無くし、ガックリと肩を落とした。価値のないその言葉を意味することは俺に強烈な精神的ダメージを与える。
「またこいよ〜」
ふらふらとゾンビのように店を出る俺に、店主は機嫌の良さそうに声をかける。
それもまるで遠くで響いているようで俺の耳には入らない。
一日目からこの調子だと、俺は冒険者をやっていられない。
どうするんだ。
本当にどうすればいい。
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