おれ、ダンジョンで宝箱開けたら少女になったんだけど、戻り方を教えてください

二村 三

第一章 おれ、宝箱開けたら幼女になった

第1話 おれ、幼女。

「う、あぁ」



 カラカラに乾いた喉から変な声が出る。



 昨日は飲み過ぎたかな。



 枕元にビールの空き缶が散乱した部屋で俺は起き上がった。



 俺の名前は『大分 ようじ』

 年齢34歳の独身のダンジョン冒険者。6畳一間のボロアパートに住む低所得で年齢=彼女がいない人生の負け犬だ。



 昔は違かった、昔は羽振のいい冒険者だった。一晩で普通に会社で働いている人の一月分の稼ぎを稼いだり、毎夜飲みに出かけても使いきれないほどお金を稼いでいた。


 しかし今は、家でビールを飲むことと空気を二酸化炭素に変えるくらいしか、いいことがない。



 どうしてこうなったんだろう。


 

 まともに就職しなかったせいか。



 それとも何も考えて生きてこなかったせいか。自分の人生というものがこれほど惨めなになるなんて思いもしなかった。



 しかし、そんなピークを超えてあとは転がり落ちるだけの人生だったはずの俺だが、なんと昨日、今まで見たことのない金ピカゴージャスな宝箱をダンジョンで発見した。


 どれだけゴージャスだったというと。普段見つける宝箱が何年もその場所に置いてあるという廃れた宝箱だとすると、その宝箱は周囲に赤や緑の光輝く宝石が地面から生え、宝箱に使われている板は赤い漆喰を均一に塗られ、留め金具は金でできていると思われるほど眩しい輝きを放っていた。


 きっと宝箱を持ち帰るだけで、3ヶ月は仕事をせずに遊べるだろう。


 俺は今まで幸運に恵まれてなかったことを毎日嘆いて、浴びるように飲んだくれ、二日酔いで頭痛のする毎日に懺悔し、神へ感謝の言葉をのべた。


「これから俺は、真面目に生きていくことを誓います」


 神になどいないと思ったが、それは今まで無神論者のように神のことを否定していたからに違いない。そう思った俺は心身を改めて宝箱のふたを開けた。


 しかし、そんなウキウキした気持ちと打ち砕くように開いた宝箱の中から紫の煙がたちのぼり、部屋全体を包み込むほど広がった。


「げほっゲホッ! なんだこれ」


 やられた。トラップの宝箱だったか!


 俺は慌てて逃げるようにその場を離れた。そしてダンジョンの入り口まで走った。

 煙を振り切るまで結構な量吸い込んでしまう。


 そのせいか道中、身体が熱く、節々がものすごく痛くなった。たぶんあの宝箱は神経性のトラップ宝箱だったのだ。


 幸い帰路でモンスターと接敵しなかったのは運がよかった。


 こんなところで見つかったらまともに戦闘ができず、自分よりも弱いモンスターにもやられてしまうだろう。



 そうして命からがらダンジョンの外に出た時には、深夜を回っていた。そのせいかダンジョン前の商店には人通りがなく、シーンと街頭の明かりが点々としているだけで静かだった。


 俺は息も絶え絶えのまま、身体を引きずるように帰宅し、服も着替えないまま、布団に入り身体の中の空気を外に吐き出すように大きく深呼吸して目を瞑った。



 どうにも調子が悪く身体が凍えるように寒い、視界も揺れるし、声も高く風邪っぽい。おまけに鼻水が止まらない。



 頭が二日酔いみたいにガンガンし、俺は自分が死んでしまうじゃないかと恐ろしく思い始めた。



 すると急に心細くなって、昔に水族館で買って部屋の肥やしになっている王冠を被った大きな子ペンギンのぬいぐるみを壁から引き寄せるように抱きしめた。

 普段はこんなことはしないのに、身体の半分くらいしかないぬいぐるみが今日は大人の背ぐらいあるように感じて、抱きしめていると安心できた。


 そうしているうちに俺は寝てしまい。


 気がついたら日付が変わり、翌日の朝になっていた。



 昨日の激しい頭痛や身体の節々も痛み引いていて、それどころか普段ははっていた肩こりや、慢性的にとれなかった疲労感もなくなっていた。



「あっ……おれ、生きてる」



 そうして寝ぼけた瞳で部屋を見まわした。視線が低く感じるのは病み上がりのせいだろうか。加えていつもより高い声が出る。まるで女児みたいだ。

 部屋は大きく見え、自分の手がいつもより小さくて細い。

 俺は自分の顔を触った。つるつるし、まるで吸い付くような肌だ。すごくもっちりとして柔らかい。

「なんだか、お股がスースーするな」

 自分の股間を探るように触る。



 がさごそーー



 ……あれ?



 俺は違和感を感じもう一度触った。



 ぺたぺたーー



 ……ない、ないぞ。




 苦楽をともにしてきた息子がいない……だと……?



「へっ?」


 俺のお股から息子の姿は消えていた。

 おかしい。息子が独り立ちするなんてあっていいはずがない。



 つまり今の俺は……男じゃない?



 部屋の壁際に立てかけられた等身大の化粧鏡を見る。

 そこに腰下まで伸びる黒髪のまぎれもない美少女が、首元がよれた白いTシャツと男ものボクサーパンツを着て俺の布団に座っていた。



「…………だれ?」



 思わず俺は目をぱちくりしてその少女を見た。



「誰だ、この絶世の美少女は……」

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