第2話 まずは母 1
ある朝、ノエルはいきなり暴れだした。大声を出してわめき、家具や調度品を引き倒して壊した。それでも興奮が治まらず大声で泣き喚いた。
誰が怒っても、なだめても駄目だった。特に両親が近づくと、物を投げつけて、ひきつけを起こしそうになるくらいに呼吸が乱れた。
そして一日が過ぎると嘘のように静かになり、誰とも口を利かず、食べ物もとらなくなっていたのだ。
ハンナはノエルをおぶって屋敷に戻り、それを見たノエルの母アマリアはほっとしたようだった。
「ノエル、今日はご飯食べられそう?」
「……」
ノエルはハンナの背中にぎゅっとしがみつく。
「あなたの好きな肉をパンにはさんでもらったの、スープもあるわ。少しでもいただきましょう?」
「奥様、ノエル様のお食事をお部屋にご用意させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ノエルがそうしたいと言ったの?」
「はい」
アマリアは悲しそうに
「そう……。あなたとは話すのね。ノエル、またあとでお部屋に行くわね」
そういったが、ノエルは返事をしなかった。
ノエルはハンナにねだって一緒にご飯を食べていた。
「うわあ、美味しいですね。坊ちゃま、何があったか知りませんがご飯は食べないといけませんよ」
そう言いながら、ハンナはノエル以上に食べている気がする。
「……うん」
「うちは貧乏ですから、こんな贅沢なお食事なんて口に入りませんでした。坊ちゃまが食べられないのが悲しくなっちゃいます」
「ごめん……そうだね。贅沢でわがままだね」
「いえっ! そうじゃなくて! 聡明な坊ちゃまがこうなるほどの理由があるのかと思うと、それが悲しいのです。坊ちゃま、何か辛いことを我慢してるのでしょう?」
「……そんなことないよ」
ハンナは急にノエルを抱き寄せた。
「ちょっと……ハンナ?」
「でも涙流れてますよ」
無意識に涙がこぼれていたようで、ハンナが背中をさすってくれる。
「坊ちゃまはまだ5歳です。大人に頼っていいんですよ。私に言われてもって感じですね」
明るく笑ってくれる、ハンナがありがたかった。
そこにドアが開いて、アマリアが入ってきた。
使用人のハンナがノエルと食事を共にし母親のようにノエルを抱きよせて慰めている様子を見て激高した。
「使用人の分際で何しているの!」
「申し訳ありません!」
ハンナは慌ててノエルを放すと壁際に立った。
ノエルのことに憔悴していたアマリアは怒りを抑えられなかった。ハンナを平手で打つと
「ノエルから外します! 下がりなさい!」
頭を下げて謝罪するハンナを追い出すアマリアを、ノエルはどんと突き飛ばしてハンナの足にしがみついた。
「ノエル⁈」
「触るな! 汚らわしい!」
ノエルの腕をつかんだアマリアはその手を払われた。
「な⁈ ノエ…ル?」
ノエルはハンナの手を掴むと部屋を出て行った。
ノエルはハンナの手を引きながら笑った。
「ノエル」になり、絶望しかなく荒れたが、考えようによっては復讐したい相手がすぐそばにいるのだ。
サンテール家の大事な一人息子、その立場を利用すれば簡単に復讐が出来るじゃないか!
ノエルは鬱屈した思いが少し晴れた気がした。
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