2-9 訣別
「これはこれは朱雀の神子、無事でなりよりです」
「術士さま、私に何か御用ですか?」
羽織を頭から被ったままの
「ああ、実は、少し伺いたいことがあって待っていたのですよ」
三人の中心にいる青年は、含みのある言い方でこちらに一歩二歩と近付いて来ると、
「おじさん、それ以上近づくなら、大声で叫んでもいいよ。そしたら、鳳凰殿にいる宗主サマか、あの怖い護衛が助けに来るかも?」
「その目付き、嫌味ったらしい口調。やはり、あの
青年は"おじさん"と呼ばれるにはまだ若いが、その言い回しが気に入らなかったのか、
「それで? 私に伺いたいこととはなんです?」
「今からでも遅くない。俺の配下になれ。もちろん、損はさせない」
真紅の羽織に手をかけようとした青年の手を、
「ひとが
掃われた右手をそのまま振り翳し、
「いい加減にしてください!」
びくっと青年はその怒鳴り声に肩を震わせた。振り上げたままの手は完全に行き場を失い、声のした方へと恐る恐る首だけ向ける。そこに声の主はおらず、それが自分に向けられたものではないことに安堵の表情を浮かべた。
他の術士たちも顔を見合わせて、今の状況を確認しているようだった。
(今のは····
「昔の恩があったので、今まであなたに仕方なく仕えてきましたが、今回の件でいよいよ愛想が尽きました! あなたが宗主でいられるのも、これが最後となるでしょう」
話がどんどん不穏になっていく。青年たちは、そのやりとりに聞き耳を立てることに夢中になっており、今なら隙をついて簡単に逃げられそうだ。
しかし
それは、刀と刀がぶつかり合うような甲高い音だった。
「
「これは宣戦布告です。あなたをその座から引きずり下ろすための、私の決意と思ってくれて結構」
開け放たれたままの扉の先、刃を交わしているふたりの姿があった。駆け寄ろうと一歩踏み出したその時、突然、扉の右側に身体が引き寄せられる。
「近寄らない方が良い。とばっちりで怪我をするといけないからね、」
扉の横にいた伯父の
「······なにがあったの?」
珍しくまだ馴染めていない伯父に対して、
「あなたがこれ以上好き勝手に振る舞うのなら、こちらにも考えがあります。鳳凰の儀であなたを倒し、私が次の宗主になります!」
「やってみろ。今までお前が本気でやって、俺に勝ったことなど一度もないだろうに」
「それは、昔の話でしょう。常に修練に励んでいる私と、忙しさを理由に怠けていたあなた。その差はとうにないようなものですよ」
はあ、と嘆息した
路を塞いでいた三人の間を「邪魔です」と言わんばかりにぶつかりながら通り過ぎ、さっさと自室へと帰って行く。
ぽかんとする三人だったが、
「こんな所までのこのこと。ご苦労なことだな」
「
扉に手をかけた
「あれのことは気にしなくていい。それよりも、君の話を聞きたい」
「ダメだよ。まずはさっきのこと、ちゃんと説明してくれる?」
「見たままさ。それを話す必要が?まあいい。とりあえず、君はこちらへ」
あの茶番劇がなんであれ、その真相を知る必要はあった。
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