セルフヌードをいつも見下している幼馴染の男友達に誤送信してしまったJC

矢木羽研(やきうけん)

セルフヌードデッサンがノーリスクだなんて誰が言った

今日も私は、私の裸をモデルにデッサンをしている。

どんなポーズ集やデッサン人形よりも、いくらでも好きなポーズにできる自分の体こそが最も便利なモデルなのだ。

今はスマホさえあれば何度でも簡単に自分の写真を撮ることができ、用が済めば完全に削除できる。お金もかからないしリスクもない。

ちょっとばかりプロポーションが物足りないのは寂しいが、すぐに成長する。成長するはずだ。


今日のポーズは、両手を後頭部で組んで両脇を開いたポーズ。

軽く体を捻った状態で、角度を変えて何枚か撮影することで立体的にイメージしやすくなる。

まるでグラビアのセクシーポーズのようで気恥ずかしいが基本的なポーズの一つに過ぎない。


さあ、そろそろ仕上げるぞという段になってLINEにメッセージが来た。同級生の馬鹿男子だ。

「この前買った攻略本、魔王城のマップ撮って送ってくれない?」

ゲームプレイで詰まっているようだ。まったく、こいつは昔からこうだ。勉強でも遊びでもいつも私を頼ってくる。

だいたい、いつまでゲームなんかやってるんだよ子供っぽい。……攻略本まで買い揃えている私が言えたものではないが。

「今忙しい、自分でwikiでも探せ」

「細かいルートとかアイテムは書いてないんだよ、頼む、お願い!」

ハートマークつきで「おねがい」と懇願するかわいいハムスターのスタンプとともに泣きついてきた。

私が小動物好きだとわかってやってるから質が悪い。

まあ、もうすぐエンディングだ。さっさと送ってやればすぐ黙るだろう。


私は攻略本を開いて、見開き3枚に渡る魔王城のマップを撮影した。

6ページ分もあるのか、壮大なダンジョンだった、あの馬鹿が自力で突破するのは無理だろうな、等と思いながら、順番に画像を送信する。

1枚目、2枚目、3枚目、4枚目、……あれ?

見開きを2ページずつ撮影したので、攻略本の写真は3枚だけだ。

4枚目として送ったのは、私がモデル用に撮影したセルフヌードだった。


……やっちまった。最悪だ、よりによって自分の裸を馬鹿のスマホに送っちまった。

つまりこいつは今、魔王城のマップと一緒に私の裸を見ている。パンツは穿いているが胸が丸見えの私を見ている。

そのパンツも母が買ってきたクソダサい苺柄で学校には絶対穿いていかないやつだ。

どうせ下は見切れているんだから何も穿いていないほうが遥かにマシだ。

つまり私は、人に見せてはいけない姿を、よりによって一番見せてはいけない奴に見せてしまった。

……次にどうするべきだろうか?


1,「見るな!すぐに消せ!っていうか死ね!いやむしろ私が死ぬ!」

本音では今すぐこう送りたい、いや叫びたい。

しかしこんなのを送ってしまったら私が恥ずかしくてうろたえていることがバレバレだ。無し。


2,「じゃ、攻略頑張ってね」

平然を装う。私は攻略本の写真を送っただけで、おかしな写真など最初から存在しなかったかのように振る舞う。

しかし写真を送った事実は消せない。これでは私が裸のセクシーポーズで激励したみたいじゃないか。そんな変態は嫌だ。無し。


3,「これは絵のモデルのために撮ったやつを誤送信しただけだから」

いっそ正直に言う。しかし奴は私の事情なんか知っているわけがない。

それじゃ単に隠れクソビ○チが苦し紛れに言い訳したみたいじゃないか。無し。


迷っているうちに時間ばかりが経過する。そして奴からの返信もない。対応に迷っているのはお互い様か。

結局、この日は絵の仕上げも放棄してそのまま寝てしまった。


「おはよう」

学校で奴に会う。珍しく寝不足のようで目に隈ができていた。

「おはよう、どうしたその目」

「いや、えーと、昨夜ゲームやりすぎちゃって」

「早く寝とけよ馬鹿」

私は悪態を付く。あいつ私の裸で抜いただろ。悔しい。いや女としては喜ぶべきなのか?でも悔しい。

ああ、奴は今も私を見ながら裸の写真と重ねたりしているんだろうな。死ねよムッツリスケベ。

「写真、ああ攻略本の写真ありがとね、昨夜は言い忘れちゃったけど」

あー、絶対私の裸も使われちゃってる。今すぐ死にたい。でも死ねない。むしろ殺したい。


最悪の気分で授業を受けながら、ようやく昼休みになった。2人きりになったタイミングで馬鹿が私に話しかけてくる。

「……なあ、ああいう写真いつも撮って誰かに見せてんのか?」

「は?!!」

「俺が言うことじゃないかも知れないけど、そういうのってよくないと思う」

「違う!それは違うから!絶対勘違いしてる!!」

私は裏垢女子でもパパ活女子でもない。最悪の誤解は解かなければならない。

「何が違うんだよ」

「とにかく違うんだよ!……あー、いいから学校終わったら私の家に来い!全部説明する!」


そう言って無理やりクソバカを私の家まで引っ張ってきた。

「おかえりなさい……あら、お久しぶり。大きくなったわねぇ」

母は奴を見てそう言った。もう何年も前だけど小学生のころは時々連れてきていたな。

「おばさん、ご無沙汰してます。香菜さんにはいつもお世話になっております」

「まあ、大人っぽくなったわねぇ」

違う、そいつはただのクソガキだ。定型文を喋っただけで騙されるな。世話してやってるのは本当だけど。

「もう、いいからさっさと来い!」

「香菜、お友達にそんな乱暴な言葉遣いしちゃ駄目よ!」

「あー、もううるさい!」

「香菜!!」

「なんかすみません……」

「あなたが謝らなくてもいいのに。まったく、この子ったら……」

あー、これじゃどう見てもクソガキは私のほうじゃないか。最悪。


私は奴を自室に連れ込んだ。そしてスケッチブックを本棚から取り出す。

「えーっとね、私はずっと絵の練習をしてるの」

正直言って見せるのは恥ずかしかったが、説明するためにはそうするしかない。

「絵の練習には自分自身をモデルにするのが一番いいから、自分の体を撮ってるわけ。誰かに送ったりするわけじゃないの」

私はスケッチブックを開いてデッサンを……つまり私の裸を見せる。奴は食い入るように見ている。

「これでわかった?……あんまりじろじろ見るな変態」

「ごめん」


そんなやり取りをしていたら、母が部屋に入ってきた。2人分の飲み物を持っている。

「あら、もうそんな仲だったのね」

奴に見せているヌードデッサンを見ながら母が早合点する。

「違うの!説明してるだけだから!こいつの前で裸になったりはしないから!」

「そうなの、残念だわ」

「何が残念なの!まったくもう」

「はいはい」

「それじゃ、お母さんは買い物に行ってくるから留守番お願いね」

やめてくれ、こいつと2人きりにするな。貞操の危機だ。


「……でさ、昨日の写真見て、お前はどう思った?」

やはりこれだけは聞いておきたかった。

「どうって、その……綺麗な体だな……って」

照れくさそうに答える。正直な奴だ。

「はっきり聞きたいんだけど、ぶっちゃけあれで抜いた?」

聞いてどうするんだと自分でも思ったのだが、もやもやしたまま終わるのは何となく嫌だった。

「……うん、同級生の裸なんて見るの初めてで、興奮したから……」

奴はうつむきながらも正直に答えた。

「普通のエロ本とかよりいいの?スタイルも全然よくないのに」

「だって、ずっと好きだった人の裸だから」

……ん?今なんかすごいこと言わなかったか?

「ちょっと待て、今なんて言った?私が好きだって聞こえたんだが」

「そうだよ、俺は昔から香菜が好きなんだ」


「……マジか」

「マジだよ」

奴の目は真っ直ぐに私を見ている。

「……そっか、私みたいなのを好きなんだ。へー、ふーん、そうかそうか」

口ではこう言ってみたものの、今の私は絶対ニヤけている。面と向かってこんなことを言われたのは初めてだ。

昔から馬鹿で愚図で意気地なしだったこいつからこんな言葉が出るなんて。

「……あの、返事くれないかな」

「あー、もう、うるさーい!」

そう言いながらクッションを抱えて床をごろごろと転がり回る。あ、スカートの中見られたかも。まあいいか。


私は起き上がって、返事の代わりにセルフヌードのスケッチブックを奴に渡した。

「これ、貸してあげる。見てもいいけど、あとでどの絵が一番良かったか教えてくれる?」

今までは友達にも先生にも見せられなかったが、こいつになら評価を頼める。

なんといっても裸の写真を見られた仲(?)だ。今さら絵を見られるくらいなんともない。なんともないったら。

「でも俺、絵とか全然わかんないんだけど」

「あーそれじゃ、……一番エロいと思ったのはどれか、ってことでいいよ」

私は何を言っているんだろう。しかしこいつに評価させるとしたらそれしかないじゃないか。

芸術的センスなど皆無だとしても、興奮させられるほどリアルに描けたのなら上出来ってことだ、多分。

別に、私は自分の裸を男に見せることに喜びを感じているわけではない。

このスケベな馬鹿だけど正直者を、画力向上のために利用してやるだけだ。ほんとだってば。

「こんなことを頼める人は他にいないんだから。あと絶対他の人には見せるなよ!それに学校にも持ってくるなよ!」

「わかってるよ」

そう言いながらスケッチブックを鞄の奥にしまい込んだ。


「じゃあな、また寝不足になるんじゃねーぞ」

私はそう言って奴を見送った。

このまま付き合いを続けていたら、いつか絵でも写真でもない裸を晒す日が来るのだろうか。

そんなことを考えていたら、頭の中が奴で一杯になってきた。

雑念を振り切るために、昨夜投げたままで止まっていたデッサンの仕上げに取り掛かるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る