第1話 異世界神との邂逅

「ここはどこだ……?」


 俺は気付けば、暗闇の中に佇んでいた。周囲を見回したものの、闇以外は見出すことが出来ない。

 俺は、どうしたものかと佇んでいると、途端に視界が白くなった。目の前で強烈な閃光が起こったのである。


 目を閉じていても分かるぐらいに、目の前の光が弱まったのを感じると、俺は目を開けた。

 俺の目の前には、光の玉が浮かんでいる。いつの間にか周囲の闇は晴れ、白い空間に様変わりしていた。


『目覚めたか、人の子よ』


 突如として、頭に何者かの声が響く。


「だ、誰だ!?」


『我は其方の前におる』


「目の前……?この光の玉か……?」


『左様、我は其方の頭に直接語りかけておる』


 俺の頭に響く声は、目の前の光の玉らしい。頭の中に直接語りかけることが出来るなんて、この光の玉は何なんだ?


『人の子よ、我は神である。其方にとって異世界と言える世界のな』


「異世界の神!?何だって、そんなのが目の前に……。そもそも、此処はどこなんだ!?何で俺はこんなところにいるんだ!?」


 光の玉は、自称異世界の神らしい。だけど、俺は何でこんな知らんところにいるのか?俺は自称異世界神に問いつめる。


『此処は我の世界の神域である。我は其方の世界から、見込みのある魂を我の世界に招いておるのだ』


「異世界の神域!?俺がいた世界から見込みのある魂を招いてるだと……。確かに、俺は見込みがあるのかもしれないが……」


 異世界は、見込みのある人間の魂を自分の世界に招いているらしい。確かに、俺の様に才能満ち溢れる人間の魂が必要なのかもしれないが……。やれやれだぜ……。


『いや、其方は見込みなんぞ無いぞ。其方の魂は手違いで招いてしまったのだ……』


 俺の魂は間違えて招かれてしまったらしい。しかも、見込みが無いとか……。


「おい!!ふざけんなよ!!なら、元の世界へ戻せよ!!」


『残念ながら、其方を元の世界へ戻すことは叶わぬ……。其方の魂を招いたということは、其方は元の世界で死んでいたということだ……』


 異世界神に元の世界に戻すように求めたところ、異世界神は俺が元の世界で死んでいたという衝撃の言葉を発した。

 もしかして、異世界神は俺をこの世界に呼ぶために、俺を殺したのか……?


「死んでいたって、どういうことだよ!!俺をこの世界に招くため殺したってことか!?」


『いや、其方は元の世界で死んで彷徨っていた魂なのだ……。其方の世界の神との約定により、我はこの世界に魂を招くことは許されておるが、欲した魂の持ち主を殺す力を行使することは出来ぬし、約定違反になる。故に、其方を殺したのは我では無い』


 俺が異世界神を問い詰めたところ、俺の魂は元の世界を彷徨っていたらしい……。異世界神の言葉を信じるならばだ……。

 それだけで無く、元の世界の神との約定って何だよ!?


「じゃあ、どうして俺は死んだんだよ!?」


『それは知らぬ方が良い……。死んだのは其方だけではない。大勢の者が死んだ……。其方の世界ではまだ多くの魂が彷徨っておる……』


 死んだ理由は知らないほうが良いって……。大勢の人が死んで、まだ多くの魂が彷徨ってるって、どういうことだよ……?


「元の世界で何があったんだよ!?」


『知ってもツラいことであるし、知ったからとて何かが変わる訳でも無い……。其方を招いたのも何かの縁だ。我の世界へ転生させてやろう』


 異世界神は元の世界のことについては教えたく無い様だ。

 俺を異世界神の世界へ転生させてくれる話題を変えてしまった。

 まぁ、もう死んでしまったから、どうしようも無いし、元の世界のことを考えてもツラのかもしれない。

 異世界神が転生させてくれるという言葉に前向きに臨んだ方が良いような気がしてきた。死んでしまったからだろうか、不思議と割り切れてしまう自分がいる……。


「異世界神の世界ってのは、どんな世界なんだ?転生するにしても、どんな世界なのか知りたいんだが」


『我の管理する世界は、其方の世界の言葉で語るなら、剣と魔法のファンタジーの世界だな』


 俺が異世界神の世界について尋ねると、剣と魔法の世界らしい。思いっきり、テンプレじゃねぇか……。


「それ、ラノベやアニメの転生モノのテンプレでは……?」


『お約束、様式美というヤツだな。我は其方がいた世界の文化が好きなのである。そのため、似たような世界を作ったのだ』


 異世界神は、地球の文化が好きらしい。どうやって地球の知識なんて得てるんだろう……?


「異世界神は、どうやって地球の情報を得ているんだ?」


『それは、機密事項だ……』


 異世界神に地球の情報を得ている手段を尋ねたところ、返答したく無い様だ。


「異世界神の世界に転生したとして、特別な力とか貰えるのか?凄い装備やチート能力とか?」


『魔王を倒すために呼んだ勇者の魂なら、強力なアイテムや特殊能力など与えるところだが、其方には無理だな……』


「魔王がおるんかい!?しかも、俺には与えられないって、何でだよ!?」


『過ぎた力は身を滅ぼす。其方の魂は見込みが無いと言ったであろう?強力なアイテムや特殊能力を与えても、其方の魂が堪えられぬのだ。其方では廃人になる可能性が高い』


 異世界神に特別な力を求めたら、俺には扱えないと言われたんだが……。まぁ、廃人になるくらいなら、止めておこう……。


「じゃあ、チートじゃなくて良いから、優遇してくれよ。異世界神の手違いで呼ばれたんだからさ」


『過失は我にあるから仕方無いか……。どんな風に転生したいか希望を聞いてやろう。全てを叶えてやる訳にはいかんが……』


「マジか!?」


 異世界神に何か優遇措置を求めたところ、希望を聞いてくれるらしい。

 何を希望しようか……。


「魔法を使いたい!!魔法の能力を優遇してくれよ!」


『魔法か……。我の世界では、魔法は貴族しか使えぬ』


「貴族!?貴族しか魔法を使えないのか!?」


『魔法を使うには魔力が必要だが、魔法を発現するためには魔力を多く内包している必要がある。そんな魔力を持つ者は貴族が独占しているのだ』


 貴族が魔法を独占してるとかヤバい世界なんじゃ……。貴族とか面倒くさそうだな……。


「貴族なんて面倒くさそうだから、何とかならないか?」


『貴族では無いのに、魔法を使えるだけの魔力を有していると、赤子の内に処分されるか、貴族家で永遠に奴隷の如く扱われるだけだぞ…?』


「マジか!?」


『攻撃魔法などと呼ばれる強力な魔法を使えるのは、貴族に限られるが、身体強化や生活魔法と呼ばれる程度の魔法を使える者は、珍しいながらもいる。しかし、強力な魔法は使えんぞ……』


 貴族で無いのに魔法を使えるだけの魔力を持ってると処分されるのか……。弱い魔法を使える者なら、珍しくてもいるみたいだが、俺は魔法を使える様になりたい!!

 しかし、貴族たちの権力闘争には巻き込まれたくないぞ。


「分かった!貴族で良いよ!ただ、貴族たちの権力闘争に巻き込まれたく無いから、なるべく平穏なところで頼む」


『良かろう。貴族として権力闘争に巻き込まれずに、なるべく平穏な生活を送りたいとなると辺境の貴族であろうな』


 貴族たちの権力闘争に、なるべく巻き込まれたく無いとなると辺境の貴族になるのか……。

 俺は寒いのは嫌いだし、暑くても砂漠とかはイヤだ。過ごしやすいところが良いぞ……。


「辺境なら、なるべく暖かくて過ごしやすい良好な環境の貴族で頼む」


『ワガママなヤツだな……。なるべく期待に答えてやろう』


 異世界神は、俺の希望を考慮してくれるらしい!過ごしやすいところで貴族ライフとか何てメシウマだ!!


『では、そろそろ、其方を転生させることとしよう』


「あ、魔法の能力の優遇を忘れないでくれよ?」


『分かっている。其方の魔力を多目にし、魔法を発動しやすい様にしてやろう。転生した者たちにとって、魔法で重要なのはイメージだ。地球からやって来た其方たちならば可能であろう』


「魔法はイメージって、最後までラノベのテンプレっぽいな……」


『うるさい!では、これより転生させる。もう会うことは無いだろうが、何か縁があったならば再び見えようぞ』


 異世界神の言葉とともに、再び視界が真っ白に染まる。

 何かあったら、再び見えようって、不穏なフラグを立てないで欲しいんだが……。

 まぁ、これからの平穏な貴族のスローライフに期待しよう!






 こうして、男は異世界へと転生することとなった。

 しかし、異世界神の与えた力は、神にとっては些細な物でも、その世界では強力なものであった。

 こうして、男は何れは異世界の激動に巻き込まれることだろう。

 転生先も温暖で過ごしやすく、貴族たちの権力闘争に巻き込まれずらい土地ではあるが……。

 異世界神は男の要望には、しっかりと応えてはいる……。しかし、そんな甘い思いを出来るような世界では無いのであった……。

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