探偵名木沢刃金の事件簿

緑窓六角祭

[1] 探偵

 名木沢刃金は超天才美少女探偵である。

 と書いた後で気づいたが今となってはそのまま言葉通りに受け取るのはちょっと難しい。


 超はともかく天才かどうか、ある種の特異な才能の持ち主であることは確かだ。

 今まで他に同じような芸当のできる人間に出会ったことはないし、考えようによっては知的能力と運動能力その両方においてすぐれていると言えなくもない。


 美である点については個人的には認めてしまっても構わないと思う。

 青みがかった黒のつややかなセミロングに切れ長の鋭い目。深く沈んだ黒の瞳は目に映るすべてを見透かしている、かのように思えるが多分そんなことはない。

 長身で手足もすらりと長く、モデルだとかそんな類の仕事もがんばればやれそうな気がする。普段は滅法姿勢が悪くてそのあたりは台無しになっているが。


 そんなことより問題は少女という部分だ。

 出会った時いきなり超天才美少女探偵を自称してきて、それでなんとなくそのように紹介してしまったが、すでに20をいくつかすぎて少女と呼べる年齢ではなくなったと思う。


 いや少女という言葉はわりと幅広く使われていて20代前半ならぎりぎりいけるんじゃないかという気がしないでもないけど名木沢刃金に対して私はその言葉を使いたくない。

 なぜなら私と彼女は同い年で彼女が少女なら私も少女ということになり、さすがになんかそれは恥ずかしいと感じてしまうからだ。

 別段同い年だからといって同じカテゴリに押し込めなくちゃいけないなんてことはないけれど、ともかく私の感覚として超天才美少女探偵の少女の部分には疑問符をつけておく。


 最後に探偵、ここのところに限っては大多数の人間が認めてくれるはずである。

 職業として探偵をかかげた上できちんと依頼を受けてそれで収入を得ているのだから、これはもうたからかに探偵であると宣言したところで差し支えないだろう。


 ただし探偵といっても浮気調査や身元調査なんて現実的な仕事はほとんどしたことのないファンタジックな職業の方だ。

 そんなのフィクションの中にしかいないでしょと思われるかもしれないが、実際に存在しているのだから仕方がない。それが名木沢刃金である。


 ちなみにここまで長々と語ってきた私は何者かと言えば、彼女の助手のような記録係のようなそんなものだ。

 一般的にそうした役割の人間は探偵を尊敬しているものだが私の場合はそんなことはない。尊敬していることは尊敬しているが崇拝には程遠い。

 上下関係ですらなく対等な友人、と私は思っている。付き合いのそこそこつづいているただの同性の友人であってそれ以上でもそれ以下でもない。

 いまだに彼女のそばにいてこうして何の役にも立ちそうにない記録をとっているのは、おもしろいからというただそれだけの話だ。

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