夢からの帰還

「ん?ここは……?」




 さっきまで俺はノブナガの山喰の中でもがいていたはずだった。


 だがここは……




「元の世界……か?」




 こっちの世界に飛んでくる前のド田舎。


 俺が店長をやっているコンビニの駐車場にただ立ち尽くしていた。


 客も普通に出入りしているし、従業員も見知った顔だ。




「別に戻りたかったわけじゃないんだがな。そんなに経ってないのになんか懐かしいな。」




 常連客が店員と談笑しながら次の客を待たせている。


 いつもの光景だ。




 ……いや、おかしい。


 店員のシフト、車の配置、ポケットのタバコの本数。


 何もかも俺があっちの世界に飛んだ時と同じだ。


 そして、




「あれは……俺だな。」




 車に乗りこみ今にもエンジンをかけようとタバコを1本咥えている俺が見える。




「って事は、この後か。」




 遠くの地平、巨大な飛行物体が地面に当たったと同時に地面が揺れる。


 真っ白の光に包まれ、俺は眩しさで目を手で覆う。


 聞こえてくる悲鳴、叫び。






 覆った手をゆっくりと下げ、目を開けた時そこは真っ暗の空間だった。


 さっきの悲鳴や叫びが耳に残ったままだ。




「なんだったんだ今のは。」




「記憶だよ。」




 突然後ろから何者かに声をかけられる。


 振り向きそこに立っていたのは白髪の中性的な見た目をした面識の無い人間だった。


 真っ暗の空間なのにそいつの姿だけが明確に分かる。




「誰だお前は。」




「君は知っているはずだ。たとえ僕と面識が無くてもね。」




「何の事だ?」




「何がどうあれ君は今、ここへの扉を開けてしまった。これから君はとても大きな選択をしなくてはならない。」




「人の話聞いてる?」




「最後に迷った時は、もう一度ここへ来ると良い。君の中には20万の仲間が居る。」




「20万の仲間?」




「その中の数人はもう、自ら扉から出て君に力を貸している。どうか最後まで、君らしくあってくれ。」




「おい、本当になんの事だか……わから……ん……」






 ……




 ……さん…




 …ちな……さん…




 一成さん!!




「レ……イン……か?」




「良かった!!目を覚ましたんですね!!」




 目を覚ますとそこは俺が戦っていた場所だった。


 さっきのは本当に何だったんだ?


 暗闇の中に居たからかやけに辺りが眩しく見える。


 レインはそのまま俺に抱きついてきた。


 抱き返してやりたいが俺はそもそも体が動かせん。




「ハッハッハ!!締まらんなぁ。勝ったお主が我より死にそうとは。」




「俺は……勝ったのか……?」




「我の剣閃は主の拳に負けた。我の全力に主は勝ったのだ。誇るが良い。」




「そうか……。勝ったのか……。」




 動けないまま俺は涙を流した。


 長いようで短い戦いだった。


 勝つためというより試すために挑む戦いだった。




「レイン、ありが」




「もう許しません!!一成さんはバカです!!もう、本当に……死んじゃったと思ったんですから!!」




「うん。ごめんな。」




 俺の胸の上で泣きじゃくるレイン。


 少しずつ動けるようになった腕で、謝罪しながらその頭を優しく撫でた。




「……許しません……バカ……もう……中華まん……焼き鳥……。」




「あれ?レインさん??」




「約束、守ってくださいね!!」




「ははっ。分かってるよ。……今回の報酬で足りるか……?」








 タバコを吸わせてもらいながら数分もすれば、俺の身体はある程度動くようになり、普通に自分でタバコも吸えるようになった。


 動けるようになった俺を見てアゲハを隣に連れてきたノブナガが口を開く。




「お主にそれを。」




 そう言ってノブナガは地面に刺さった山切包丁と鞘を見た。




「俺刀なんて使えねぇぞ?って重っ!!」




 回復しきっていない体で持ち上げるのは酷なほど重いぞこれ。




「ハッハッハ!!分かっておる。出来ればで良い。我の墓に戻して欲しい。アゲハが持つ竪琴も共にな。」




「そういう事か。道中寄ることがあればな。」




「感謝する。さて。」




 簡単に礼を言いノブナガは覚悟を決めたように正座する。


 その姿はこれから腹を切り自害しようとする武士そのものだった。




「お前の手で我の首を落としてくれ。」




「嫌だね。」




 ノブナガは驚き戸惑いながら前屈みになる。


 俺はタバコをひと吸いして間を開けた後、切り返した。




「第1にグールのあんたが首を落としたところで死なねぇだろ。」




「それはそうだが……。」




「俺は最初から考えてた事がある。」




 そう言って正座するノブナガの横にあぐらをかいて座る。


 そしてレインにタバコの箱を要求し、そこから1本ノブナガに差し出して咥えさせる。




「なんてことはねぇ。戦いが始まってから、最後はあんたと1本吸いたかったんだよ。」




「ハッハッハ!!どこまでも、我好みの男だ!!」




「グールのあんたに呼吸はいらないだろうがな。ほら、息吸ってみろ。火をつけてやる。」




 俺がタバコの先端をライターで炙ると、ノブナガは俺の見よう見まねで息を吸う。


 折角なので俺も今吸っているタバコを1度消し、新しいタバコに火をつける。


 先端に赤く火が灯り、互いのタバコの火は時間をかけゆっくりと2人の口元へ向かって進んだ。

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