旅立ち

 一通りレインと今後の身の振り方を語り合った後、俺たちは旅の準備を始めた。幸い村人達が送ってくれた食べ物や日用品などがあるので新しく調達するような物は無かった。




 一通りレインと今後の身の振り方を語り合った後、俺たちは旅の準備を始めた。幸い村人達が送ってくれた食べ物や日用品などがあるので新しく調達するような物は無かった。




「これなら明日にでも出発できるな。」




「私……」




 と、レインが自分を語り出す。




「実は村を追い出されたあと、どうせならと旅に出ようとしたんです。でも昔から私は目が見えないから諦めていたんです。」




 そりゃあそうだ。行きたい場所があってもそこに向かうのは盲目では簡単な話では無い。


 そもそも時間がかかるし、山の神のような野生動物がウヨウヨ居るのだとしたら普通の人間でもかなり危険である。




「私が決心出来たのは一成さんのお陰です!本当にありがとうございます!」




 そう言って頭を下げ、上げた顔には心からの笑顔があった。




「でも本当は私もこの世界を見てみたいんですけどね。」




 生まれた時から目が見えないという事はこの山の豊かな自然も、可愛らしい動物たちの姿も、自分の顔すら見たことがないという事だ。




「なら俺はこの旅でレインの目が見えるようになる方法を探すよ。」




「……無理ですよ……」




 そう呟いた笑顔の裏には目が見えないことによる苦しみが滲み出していた。でも……




「少なくとも俺の世界では魔法や魔力なんてものは存在しなかった


 それでも盲目の人間の目を完治とはいかないまでも見えるようにする事は可能だったんだ。腕や足が食いちぎられても一瞬で治すような魔法が存在するこの世界なら俺は可能だと信じるよ。」




「どうして……私なんかにそこまで……?」




 驚きで目を丸くさせながらレインはそう呟く。




「嫌か?」




「嫌なんてそんな!でも私の様な価値の無い人間……」




「少なくとも今の俺にはレイン以上に価値のある人間は居ないよ。」




 命を助けて貰ったからではなく、直感的にそう思った。


 共に旅をしていればお互いの目的も果たすことが出来るという謎の確信すらあった。


 でもちょっと恥ずかしいから前と同じようにタバコの箱をトントンと叩き、それが理由であるようにアピールする。




「残念だけど俺は元々自分大好き、自分勝手な性格なんだよ。」




 そう言うとレインは嬉しそうに。




「それはとても残念ですね。」




 と、笑いながら返した。






 翌日俺たちは山小屋を後にした。荷物は多かったが先日の回復魔法のおかげで俺はかなり仕上がった身体になっていたので問題なかった。




「最初の目的地は?」




「まずは街に行ってみたいです!途中に獣人の村があるので立ち寄って行きましょう。」




 獣人か。いよいよ異世界っぽくなってきたな。




「ちなみにその村行ったことあるのか?」




「私は村から出たことないので……」




「そうか!俺と同じだな!」




 何て冗談も言いながら気楽に俺たちは旅立った。


 レインが目が見えないので軽快な足取りとは行かないが、ゆっくりと確実に獣人の村へと歩みを進ませる。






 この時ばかりはレインの目が見えなくて良かったと思う。


 俺たちが旅立つ時遠目で見えた村はまるで嵐でも過ぎ去ったかのように荒れていた。


 山側から無数の足跡が村に向かって続いていくのも見えた。餌にありつけなかった狼たちが村を襲ったのだろう。




 だが俺にとって他の人間はどうでもいい。


 レインが無事であるならそれでいいんだ。


 タバコに火をつけ、レインから遠い方の手で持ち、空を見上げながら灰を落とした。

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