第47話

         ◆


 僕の話もこれくらいで終わろう。

 彼らのエピソードを話し始めると、きりがない。

 そもそも何故、僕が彼らの話を持ち出したのか。

 それは、ただなんとなくである。明確な理由にはなっていないけど、本当にただなんとなく、なのだ。

 星空を見て、ふっと彼らのことを思い出した。

 確か、あの時も……。


「君達、空を見上げてはくれまいか?」

 夏頃だったか。恒例の徹夜で心霊スポット調査に行った時のことだ。

「いきなり何ですか」

 まあ、言われた通りに空を見上げてみる。

 高台にある墓地からは、僕達の住んでいる町が一望でき、その頭上には星空が輝いていた。

「ただの星空じゃない。UFOでも見えたのかと思ったわよ」

「気付かんかね。……ほら、あの星座だよ。それに、あれとこれも……」

 先輩が三つの星座を指差す。それらは三角形を描いていた。

「ああ、夏の大三角ですね。琴座のベガと、鷲座のアルタイル、白鳥座のデネブ」

 昔、父と一緒によく行っていたプラネタリウムで見慣れた景色。

「その通りだ、橘後輩。宇宙という名前は飾りではなかったようだな」

「……それはどうも」

 というか、これくらい有名だから誰でも分かると思う。

「それがどうかしたの?」

「鷲座、琴座、白鳥座。……まるで、私達のようだと思わんかね?」

 確かに……。鷲羽真琴の鷲と琴、白鳥美和子の白鳥。

「でも、僕が入ってないじゃないですか」

 僕だけ三角形に入れていない。

「君の名前の由来は何だ、橘後輩」

「……宇宙の様に広い心と、人々を包み込む愛情を持った子に育って欲しい」

 これも父がよく言っていて、もう覚えてしまった。

「橘後輩は、もう入っておるだろう。宇宙は星座を包み込んでいるではないか」

「……そうですけど」

「君の御両親は、全く大層な名前を付けたものだな。宇宙は果てしなく広いぞ。一体、どれ程の広い心なのか、私には検討が付かん」

「まあ、本人はそれに全然伴っていないけれどね」

「悪かったね、心の狭い人間で」

 ちっぽけな僕らを余所に、星は変わらず輝いていた。


 あの時は、先輩が妙にロマンチックなことを言った。

「……自分達を星に喩えるなんてね」

 普段は理屈っぽくて、哲学理論を語っていたくせに。

「……本当、よく分からない」

 僕は、星を見ながら苦笑した。


 もし、僕が先輩のようにロマンチックなことを言うとしたら……。

 星が巡るように、僕達もまた会える。

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