第39話

「多分この辺りのはずよ。和風の一軒家って言っていたわ」

 歩き始めて数十分。白鳥さんが住所の書かれたメモを見ながら、目的の場所を探す。

 僕も辺りを見回す。すると、洋風の家に挟まれ場違いな感じのする家を見付けた。

「あっ、あの家じゃない?」

 家に近付いて表札を見ると「鷲羽」と書かれていた。「鷲羽」なんて、そうそういる苗字じゃない。

「やっぱりここだ……って、白鳥さん⁉」

 白鳥さんが家の敷地内に足を踏み入れていたのだ。

「ちょっと、勝手に入っちゃマズイって……」

「何よ、コレ……」

「……え?」

 そこで、やっと気付いたのだ。この家の異様さに。

 まるで、少し前まで誰かが住んでいて、そのまま放置された様な……。これじゃ引越しではなくて……。

「……夜逃げ」

 白鳥さんが隣で、聞きたくなかった単語を呟いた。

「ま、まさか、そんな訳……」

 庭の鉢植えの植物は枯れたまま、物干し竿や自転車もそのまま、カーテンも掛かったまま……。引越しなら、普通は何もなく、家だけが残っているはずだ。

 そんなことあって欲しくはない、信じたくはない。

 

 しばらく呆然としていた。

ふと誰かの視線を感じ、振り向くと塀の側に立って僕達を見ていた人と目が合った。

 その瞬間、その人は逃げ出した。

「え、あっ、ちょっと待って下さい」

 この人は何か知っている。僕の直感がそう告げた。

 無意識で、その人を追い掛ける。

「うわっ」

 その人が途中で転んだので、追い付くことが出来た。

「あっ、あの、大丈夫ですか」

「……痛たた。……って、うわっ」

 その人は眼鏡を掛け直して、もう一度逃げようとした。

「待って下さい! あなた、鷲羽先輩のこと、何か知っているんじゃないんですかっ⁉」

 その言葉にその人はピクッと反応し、僕の方を見た。

「……時は来た、ってことだね、鷲羽君」

 僕にではなく、その場にはいない先輩に向けて、確認をする様な言い方だった。

「ちょっと、いきなりどうしたのよ、橘君」

 白鳥さんも追い付く。

「その人、誰?」

「……僕は鷲羽君の友人の……」

「「児島君っ⁉」」

 僕と白鳥さんの声が重なった。

「……うん、そう」

 眼鏡を掛けた、真面目そうな少し地味目の高校生、児島君いや児島さんは、驚きつつも頷いた。

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