13 錬金術師は誘う
「ノル従兄ちゃんなの?本当に?まじ?ノル従兄ちゃんがお従姉ちゃんになっちゃった!!」
叫んだあとも大騒ぎの玲。
クーフィーや魔獣達がどうしたどうした?と近寄ってきたが話がよくわからず疑問符を頭上に浮かべていた。
アンナは肉やビールに夢中で聞いてない。
「久しぶり。玲。久々に会えて嬉しいよ」
「……って色々つっこみしたいけど、どこに行ってたの?みんな心配してたよ。正直、ノル従兄ちゃんは世界がこうなったあの日、消えちゃったじゃん?死んじゃったのかと思った」
玲と野月昇は従兄妹だ。従兄が女になって現れた。色々思うところもあるだろう。ノルンは苦笑いを浮かべてアハハと笑うも釈然としないなにかに胸を締め付けられた。
やっぱり話が噛み合わない。
その噛み合わなさ故にもう答えは出ていた。
ノルンは今日の日付から2年と一日前に大怪我を負った。その怪我が元で日付的には昨日、ノルンの前世である
アダ名はノルだ。
クーフィーがアンナに聞いたこの地球、この
「まあ、ここにいる私……いや俺自身は2年前に怪我を負って……転生しちゃってな」
核心的なことには触れずにノルンは玲にそう伝えた。
「じゃあ、世界がこうなってから……ノル
玲は言葉の続きを言えないでいた。
信じたくない……玲にとっては野月昇は兄も同然の身内だ。目の前には昇を名乗る、この世の者とは思えないくらいに美しい少女がいる。
信じたくないのはそうだが、信じられないという気持ちもあった。
ノルンという少女は顔は全然似てもいないのに、不安そうな申し訳なさそうな表情はどこか昇を彷彿させる。
だから信じてあげたい気持ちもあった。
まさかあのノル従兄ちゃんが女のコになっちゃうなんて!!玲は複雑すぎる心境だった。
ノルンはノルンで転生などと嘘みたいな話を信じて貰えるか不安で心臓の鼓動を少しだけ速くしていた。
「俺が昇って信じてくれるのか?」
「う〜ん、話は半分くらい。でもノル
もっちゃもっちゃと確かにノルンは口に肉をつめこみ食べていた。
「あ、あはは……俺ってそんな詰め込むっけ?」
「うん、それでもやっぱり全部は信じられないよ……」
「そっか……」
「……言いづらいけど、久々に再会した
「……は!?」
ノルンの前世の
この2年間で根が真面目な玲は
「あ、玲、多分考えてるのと違うぞ〜。確かに俺は女になったが多分玲が考えてるのと違うぞ〜転生したんだぞ」
「わかってるよノル
「確かに今ならお
「ふふふ、やっぱり女言葉になってるじゃん」
玲は口の横に手を持ってきてその手を反らした。いわゆる例のポーズだ。玲はニヤニヤしながら煽りまくる。玲からすれば女のコになって帰ってきた従兄に対するささやかな抵抗だ。
「だ、そうじゃない〜!!」
クーフィーもなんか変な話してるなと思いながら玲に近寄り膝の上にちょこんと座り始めた。
クーフィーはそのまま頭を後方に反らし、玲を見上げた。
「あれ?玲、お前どっかでみたことあるぞ?」
「クーちゃん!かわわ……みたことあるってほんと?」
「どこだっけ?まあいいか、おねえちゃんが言ってる転生って
「え!?クーちゃんもなの?
「地球だっていまは十分ファンタジーよ」
ノルンはもっとも反論をする。
「え、じゃあTS転生したってこと?」
玲は
故にここまで理解するのに遠回りをした。
「そ、そういうことよ」
「なにそれ羨ましい、ノル従兄……いや、お
ノルンはノルンで生まれて前世の記憶を取り戻すまで既に女として育てられ、女の感覚が根付いていた。男口調はなんか喋っていて違和感があるしと普段の口調に戻した。
永いこと生きてきたノルンにとっては男口調が素というわけでもない。かといって「わよ〜かしら〜」言葉も素ではない。
「その喋り方、やっぱり身も心、女の子に?」
「前世が男の私が男に恋愛感情持てるとでも?」
「え、それじゃあ……女の子が?」
玲は頬を赤らめモジモジしだす。
「それもないわね」
玲は異性愛者ではあるが、それはそれでドキドキを返せと真顔になる。
「まあ、おねえちゃんは、おねえちゃん風吹かすのが好きだからこの口調になってるんだぞ?素はもっと普通だしお前たちと変わらないぞ。」
クーフィーが無邪気に解説をしだしノルンはヒュッ……と言葉をのむ。図星だった。説明したことがあるわけでもないのに、なんでも知っているクーフィーだった。
「あはは、前世は道場で先輩風、身内にはおにいちゃん風吹かすの好きだったもんね~、
「おねえちゃん……」
「くっ……まあいいわよ……でもせっかく地球に転移してきんだし地球を楽しむわよ」
「ふ〜ん出戻り転移なんだね〜、じゃあ
玲はファンタジーが大好きだった。
「ふう……まあそうね、私やクーちゃんの冒険譚を聞かせてあげる」
お、きたな?となんだかんだ昔話を自慢したがるノルンはおねえちゃん風を吹かし、語り始めた
「私が大公国で大公の長女として生まれて15年経って――」
と肉をジュージュー焼き、ビールにサイダーの様な甘い飲料水で割ったものを用意し、ノルンは夜更けまで語る――
「――ふえ〜、お
剰りにも途方もない年月を生きてきたとノルンに聞かされた玲は疑う。
「盛ってないわよ、あ、これ焼けたわよ」
「ありがと〜お
「それでね、私が死の森で出会ったフェンリルが――」
すっかり「おねえちゃん」呼びになった玲。ノルンはノルンで前世の身内にそうよばれるのは
「ほら、お前たちのもやけたぞ〜」
「クーフィーさん、この肉って
「ちゃんと調べたし猫や龍なら大丈夫だって解析結果にも出てたぞ」
あほみたいにデカい肉のステーキを焼いたクーフィーは猫や龍に振る舞っていた。
そんな楽しい時間が過ぎた。
現在は5月10日2時
夜も更けそろそろ寝ようかしらなんてノルンが呟いていると、辺りに気配を感じた。
玲は刀を取り出した。
ここぞとばかりにノルンも
――召喚『
小太刀級の一振りを召喚する。
「お
「レプリカよレプリカ」
「本物というかオリジナルは錆びてボロっちい刀だからそれとは明らかに違うオーラ出てるよ!」
クーフィーとアンナもノルン達の近くに寄る。
綾乃は猫と龍に守ってもらっている。
気配はどうやら人の様だ。
数は12、武器を構えていたが怯えと殺気が入り混じった様な気配だ。
アンナ曰く、原住民でもなければ今の人類には此処、
怖いのもあるだろうが
「あ、大丈夫。多分、私達の仲間だよ」
玲は警戒を解いた。
ノルンはそれを聞いて無双できないとシュンとした。どんなに道を極めようともいつも出番を奪われるノルンは隙きあらば良いところを見せたがった。地球に来たことでそれは助長されていた。
「おねえちゃん……」
クーフィーはそんな元気のない姉が心配だった。
と各自がマイペースな空気を出していると突然、暗がりから何者かが飛び出してきた。
その者はノルン達と魔獣達の間に入ってきて魔獣に剣を向ける。
猫達はなんだなんだ?と疑問符を浮かべながらも静かに眺めていた。
「玲は無事か、よかった!俺が来たからには任せろ!」
玲はゲンナリした様な顔で肩をすくめた。
ノルンはそんな玲をみてなんとなく察した
「くそ、綾乃が囚われているのか……卑怯者め!」
はあ〜と溜息をつき、玲は叫ぶ。
「おい!イサム!綾音に相手されなかったからって次は綾乃さんか?しかもいつから呼び捨てしてんだ。彼氏面やめろ!」
「ふっ、ヤキモチか?だが今はそんなこといってる場合ではない!」
「う、キモ!」
玲はおえ〜と嗚咽を出しながらノルン達に横目を送る。
ノルンとアンナは察して頷く。
だがクーフィーはなんだこいつもしてかして面白いやつなのか?と近づく。ちなみに余興かなにかの戦闘ショーみたいものをしてくれる人だとクーフィーは思っている。
「なんか面白いことしてくれるのか?お前」
イサムは足元に近寄ってきたこの世の者とは思えないほどに美しい少女に目を奪われた。
「なっ!!危ないよ君!こら!君たちもこんな小さい子を放ったらかしにするな!未来の俺の奥さん候補かもしれないんだぞ!き、君はこの子のお姉さんかい?」
ノルンもロックオンされた様だ。
「ふ〜ん、オクさんって名の者はここにはいないが、こいつらと戦いたいのか?シャロ、お前がやれ」
『わ、わたしですか?』
シャルロッテは困惑しながらも頭の良い心優しい彼女は手加減してあげようかと考えながら渋々と前にでる。
「ぐるるるるる……」『人間よ。無理しないことだ……』
「……俺が本気を出せば……うぉ〜〜!!!!」
そのイサムと呼ばれた者は職業が勇者であった。日本には10人しかいないレアジョブだった。
恐らく勇者スキル的ななにかが発動し身体能力が大幅にアップしていた。
「はあ〜〜!!我が剣の錆となれ!」
チラッとノルン達をみてからシャルロッテに斬りかかろうと駆け出す。
『な、なんか目線が気持ちわるい!』
シャルロッテは矮小な人間から発せられた謎の不快感を嫌がり右前脚を軽く払う。
イサムは躱し次の攻撃に移ることを考えた。だがシャルロッテはクーフィーの眷属でありエンシェントスカーレットパンサーである。その程度の動きよりも早く動くだけである。
イサムは薙払われるようにシャルロッテの前脚に当たり、吹き飛び、岩壁にぶつかった。
「ぐは!!」
血を流し、血を吐きうなだれる。
「き、君たち、逃げるんだ……」
ノルン達にそう伝える。
悪い人ではないのだろう、だがキモい。
ノルンは治療すべきかどうかの判断を躊躇ってしまった。ささっと術式を発動しバイタルをみるに重傷ではあるが死ぬほどの怪我を追ってはないみたいだ。
「なんだ、お前弱いな……ちょっとガッカリだぞ」
クーフィーは悪気もなくそう伝えた。
「ごふっ……」
血を吐きながらイサムは気を失う。
「イサムくん!」
そんな声を皮切りに飛び出してきたのは5人の少女達。
一人の少女が魔法を唱える――『ヒール』
「これで大丈夫?イサムくんしっかりして!心臓の音は……?大丈夫!生きてるみたい」
5人の少女は魔獣を睨みながらも、ノルン達や特に玲を睨みつける。
「ちょっと玲さん!あなたの悲鳴を聴いて駆けつけたんですよ!」
あ、そういや大声出したなと玲が心当たりがあるような表情を出す。
「そっか〜ごめんごめん、でも君たちイサムパーティーが来てくれるとは思わなかったよ〜」
玲は面倒くさいなと思いとりあえず謝っとけと思い謝罪した。
「ほんと迷惑よ!イサムくんがどれだけ勇気を出したかわかってる?」
なにを言っても面倒臭くなるのが
「いや、アナタ達が勝手についてきただけっすよね。それにそのモンスター達もどう考えても味方っすよね?小さな子がお肉与えてたじゃないっすか〜」
ガサガサと別の6人が出てくる。
「あ、助かる〜まともな
玲はぶっちゃけた。彼女達は
「
ノルンはそんな世麗奈をみて目を背けたくなる思いにかられた
――なんで世麗奈が世麗奈のままでいるの……?やっぱりこの世界は……
「おねえちゃん?どうかしたの?」
「――うん、あ、大丈夫よ」
クーフィーの声でノルンは我に返る――
改めて彼女達を観察すれば見るからに血色も悪く、明らかに不健康、と言わざるを得ない状態だ。ノルンは詳細なメディカルチェックで彼女達を調べた。
そんな不健康な彼女達でもバーベキューコンロから漂う匂いは刺激的だ。彼女達は唾をのみ喉をゴクリとならす。
「おいしそっす〜……」
年長者である自分が収めなくては……この状況は見過ごせない。
ノルンはそう考えひとつ提案した。
「アナタ達もバーベキュー、一緒にどうかしら?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ここまで読んでくださりありがとうございます!
ノルンとクーフィーの活躍をもっと見たいぞ!
ノルンかわいい!クーフィーかわいい!
みんなの冒険を応援したい
という方は
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