六章(二)
「恵、ここからどうやるの?」
優衣が、生地が入ったボウルを持って私のところへやってきた。
「どこまでやったの?」
ボウルを覗き込みながら優衣に聞いた。
「バターに砂糖混ぜて、卵も少しずつ入れて混ぜたよ。」
「もうちょっと混ぜるこうなるよ。」
私は、自分のボウルの中を優衣にみせた。
「えー、何回ぐらい?」
自分のボウルをヘラでカンカンと叩きながら聞いてきた。
「分かんないよ、これくらい。」
私は、自分のボウルをもう一度見せ、いたずらっぽく笑った。
「もー、手痛いんですけどー。」
文句を言いながらも優衣は楽しそうに作っている。
私は、料理研究部に入った。そのことを優衣に伝えると、じゃあ私もといって、一緒に入部届を出しに行った。
料理研究部は基本自由だった。調理室に集まって作りたいものをそれぞれ作る。私は、家庭料理は家で作れるので、お菓子作りをよくしている。
今日は、明日の四時過ぎにある約束の準備をしている。
「あ、近くなったんじゃない?」
ほらといって優衣が自分のボウルを見せる。
「じゃあ、次は薄力粉を入れて、また混ぜてね。」
「えー、まだ混ぜるの?」
「今度は切るようにね。」
「はいはい。」
生地が完成すると、二人で「できた」と顔を見合わせ、ラップで包み寝かせるために冷蔵庫へ入れ、その日は帰宅した。
帰宅してから、母に「今日はクッキーを作った」と伝えた。
「上手にできた?」
「生地はしっかりできたから多分大丈夫だと思う。」
「そう、できたら少し持って帰ってきてね。」
「分かった。」
次の日は型抜きの作業から始めた。ありきたりな型しか調理室にはなかったが、そのクッキーは形が不細工だとか、お互いに雑だよと言い合いながら行うのは楽しかった。
そして、オーブンで十五分程焼き、百均で二人一緒に選んだお皿に移した。
「ちょっともらってもいい?」
百均で一緒に買った小袋を二つ取り出し、優衣に尋ねる。
「いいよー、あれ?彼氏にあげるの?」
優衣がニヤニヤしながら聞いてくる。
「違うよ。それにいないし。お父さんにあげるの。」
一緒に部活に入ったタイミングでお父さんのことは、優衣には話した。彼女は話を聞いて、それ以上詳しいことは私に何も聞かず「そうなんだ。」と一言呟いたのみだった。
「お父さんに、その袋を可愛すぎるんじゃない?」
「最終的には、私とお母さんで食べるからいいの。」
「もう一つは?」
「ひみつ」
「絶対、彼氏じゃん。」
もう一つは、お見舞い用だ。彼の母親が来てほしいと言っていたことを小野寺先生から聞いた。 幸せな香ばしい匂いが部屋に充満していた。その匂いによって、そのとき、調理室にいた二人の部員も集まってきた。 彼女たちは、小さなフィナンシェを作っていた。それも、お皿の中にいくつか入れて、結局、四人で、保健室へ行くことになった。
「じゃあ、行こっか。」
私は、パンっと手を叩いた。
「もうすぐ来るってどういういうこと?」 小野寺が私に聞いた。
コンコンとノックの音が響いた。
「失礼しまーす。」
何人かの元気な声が聞こえてくる。
「ほらね。どうぞー。」
私は、ドアに向けて返事をした。
「先生、こんにちは」
桂恵ら、料理研究部の四人が入ってきた。
「あ、小野寺先生もこんにちは」
「クッキー焼いたし、フィナンシェもあるから、先生たち一緒に食べよ。」
「いいよ、じゃあコーヒー淹れるね。」
「やったー、ありがとう清水先生。」
彼は、困ったような顔を私に向けた。 私は、彼に「よろしくね。」と声は出さず口のみを動かし、軽く微笑んだ。
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