第7話 バンパイア
お久しぶり。僕の名前は
先日、クラスメイトの
「ねえ、津久志くん。この頃、
「ん?
「ううん。だって、ほら、私と真紀ってマブダチじゃん?」
知らんがな。
「真紀、ずっと学校を休んでるし、LINEしても既読無視されてて。ていうか、本当に読んでないみたいで。気になってんだよね」
「そうなんだ。心配だね」
と言っておこう。
LINEなんて送っても読まれるわけない。だって、小田真紀さんは僕が食べたし。
「ところで、津久志くん、どこ行くの?」
「西駐車場だけど」
「何しに行くの?」
「献血」
「ケンケツ? まじめか!」
「献血はした方がいいよ。血を必要としている人がいるかもしれないから。それに、小竜さんもいつ怪我したり病気になったりして、手術とかで輸血が必要になるかもしれないし。世の中は持ちつ持たれつというじゃないか。元気なうちに献血しておいた方がいいよ」
「それは分かるけど、血を採られるのはなあ……」
面倒くさいなあ。行くか。
「あ、待って。ねえ、注射とか、痛くないの?」
なんでついてくるんだよ。まったく……。
「平気だよ。細い針だから。それに、点滴みたいな感じでゆっくり採るから、ちっとも苦しくない」
「ふーん。そうなんだ。じゃあ、私もやってみようかな……」
ていうか、もうここまで来てるし。受付の目の前じゃないか。
「そこの紙に名前とかを書くだけだよ」
「わかった。ありがと。わー、ドキドキするう」
連れションは行くけど、連れ献血なんて聞いたことない。同級生と一緒に血を採られに来て何が楽しいのだろうか。まあ、連れションも別に楽しくないけど。体液を外に出すという点では同じか。いや、オシッコは血液とは違って老廃物が……。
「ねえねえ、津久志くん。なんかさ、血を採られるって、
書いている途中で話しかけないでほしい。ほら、住所を間違えたじゃないか。
「バンパイアが必ずイケメンとは限らないよ。それに、血を吸われたら、ゾンビになっちゃうよ」
「違いますう~。ゾンビにはなりませ~ん。それはマンガでーす。バンパイアに血を吸われたら死んじゃうか、少しだけ血を吸われて同じバンパイアになるかのどっちかなんです~」
「へー、詳しいね。まあ、ゾンビ自体が変な話だしね。あ、じゃあ、ぼくはこの椅子に座るから、また後で」
ふう。やっと一人になれた。なんで献血する前に吸血鬼の話をしなきゃならないのだろうか。
「でもさー。よく考えたら、バンパイアって弱っちくね?」
隣か! カーテン越しでも話し掛けてくるのか!
「津久志っち、聞いてる?」
「う、うん。なんでそう思うの?」
「だってさー、日光で灰になるんだよ。肌が弱くて陽射しが苦手って子はいるじゃん? じゃなくて、灰になるんだよ。弱すぎじゃね?」
まあ……言われてみれば、たしかに。
「しかも、極度のニンニクアレルギーでしょ。臭いとかも駄目。で、十字架なんて見ることもできない。完全に十字恐怖症。先端恐怖症よりも深刻な精神疾患者じゃん。ラーメン屋とかアクセサリーショップとかが多い繁華街とかさ、夜でも歩けないって、マジで」
「コウモリとかに変身できるよ」
「ウケる。大きいやつだよね。そんな物に化けたら、地元の猟友会の人に撃たれるって。どうせ化けるなら猫とかの方が利口じゃね? 人にも近づきやすいし。バンパイア頭わる~」
「う、撃たれても、すぐに治るじゃん」
小竜さんはサッと仕切りのカーテンを開けた。
「それよ。撃たれたり刺されたり斬られたりした傷は治るけど、日光で焼かれた傷は治らないのよね。おかしくね?」
「太陽……エネルギーの浸食速度に……治癒能力が追いつけ……ない」
「不死身で何千年も生きてるなら、その辺が進化してそうじゃない? 進化するためには世代交代しないといけないから、寿命も短くなるだろうし。あと、血液だけの偏食とかも克服しないと、蚊レベルの生き物で脳の発達も止まっているはずなのよ。生物学的には。だから、もしバンパイアが実在するとしら、案外フツーに生活しているかも。まあ、血は自分たちのルーツだから血液関係の仕事はしているのかもしれないけどね。こういう風に」
「……そう……かも……ね……」
なんだ? 眠い。意識が遠くなる。誰か来た。大人だ。助けて……。
「公子お嬢様、睡眠薬が効いてきたようですね」
「そうみたいね。馬鹿な男ね。この献血車がウチの財団の車だって知らなかったのかしら。眠ったら、徹底的に血を抜き取りなさい。カラカラになるまで。真紀のカタキよ」
ああ……そう……なん……だ……。
「私ね、血を採られるのは苦手だけど、採るのは好きなの。そういう血筋だから」
嗚呼、吸血鬼に血を吸われる美女の感覚って、これか……。
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