第2話 無人島
僕の名前は
先日、クラスメイトの
「ねえ、津久志くん。もし、このクラスから一人選んで無人島に連れていくとしたら、誰を連れていく?」
きた。誰しもが一度はそれとなく友人に尋ねた経験がある、いや、考えたことがある問いだ。勿論、
僕は少し考えた。
無人島にも色々と種類がある。
ボートで島にたどり着く。上陸すると白い砂浜。人の気配は無い。目の前には深緑色のジャングルが広がっている。少し顔をあげると、生い茂る木々の先に尖った山が見える。頂上からは赤い溶岩を噴出中。その前では首長竜がゆっくりと闊歩している。翼竜が飛び回り、なんとかサウルスが森の木々を揺らしている。時々、食いちぎられた何かのしっぽが飛んでくる。それは丸太のように太く大きい。この島に人はいない。無人島だ。さて、誰を連れていくか……。
僕はまた少し考えた。
ボートで岸にたどり着く。今度は目の前にジャングルが広がっているということは無く、海辺の森林は切り開かれていて、そこに少し壊れたコテージや使われなくなったホテル、ボロボロのペンションなどが建ち並んでいる。その前をゆっくりと移動する人影。
僕はまた妄想した。
船で行くとは限らない。飛行機で行くかも。自家用セスナにしよう。小型のセスナ機で島の上空を旋回する。島は断崖絶壁に囲まれている。崖の上は綺麗に整地されていて、島の端から端まで伸びる立派な滑走路がある。その横には低い管制塔が建っていて、その隣には白いコンクリート製の建物。その入り口の鉄製のドアは開けられたままだ。ドアには無数の小さな穴が開いている。滑走路のアスファルトにも幾つも穴があり、所々が堀り削られている。滑走路から外れた所でジープが横転していた。タイヤがカラカラと回っていて、オイルが漏れ、黒い煙も上がっている。そこから少し離れた芝の上を白衣姿の男が全速力で走っているので、ここは無人島ではない。彼はこちらに向かって必死に手を振っている。すると、白い建物の壁を突き破り、何かが出てきた。軽自動車よりも小さい戦車だ。人が乗り込める大きさではない。その無人戦車は、車体の上のセンサーらしき赤い目を左右に振りながらゆっくりと移動すると、その動きをピタリと止めた。目の先では、さっきの白衣の男が走っている。戦車は車上のバルカン砲の先端をその方向に向けた。ほぼ同時にバルカン砲が火を噴き、その先で、男がその場に倒れた。この島はたった今、無人島になった。戦車は赤い目を左右に振りながら、島内を探索して回っている。さて、誰を連れて行くべきか……。
僕は頭を強く左右に振った。
いや、待て。天然キャラの小田さんのことだ。きっと、ほんわかとした可愛らしい無人島を想定しているはず。彼女が考えているのは、たぶん、こんな感じだ。
まん丸とした形の島が大海原の中にポツンと浮かぶように顔を覗かせている。その表面は薄緑色の短い草で覆われていて、その中央のてっぺん部分にヤシの木が一本。付いているヤシの実は二つ。こんなところだろう。島への到着手段は……たぶん考えていないから、無視しよう。
潤んだ瞳をパチパチとさせて、上目使いで尋ねてくるのだから、たぶん、自分を選んでくれると思っているに違いない。よし、連れて行こう。
僕は小田さんと共に島に上陸した。周囲は見渡す限り大海原。三百六十度海面と水平線と入道雲だ。日光も容赦ない。二人とも夏の制服姿だから、日焼けして大変だ。冷やそうと思って海水を掛けたら、痛いのなんの。食料は持ち込めるだけ持ち込んでいたが、一週間で底をついた。その後、数か月が経過する。
救出された時にヤシの実は残っていなかった。白い骨組みで支えて広げた黒い布切れは、雨水を受け止めてろ過するために使用した小田さんのスカートだ。小田さんの半そでシャツは日よけのためのシェードに使わせてもらった。魚釣りに使った小田さんの下着。小田さんの靴下は、釣った魚を天日干しする時に使わせてもらった。小田さんのローファーは……臭いから捨てたことにしよう。髪も髭も伸び放題で、真っ黒に日焼けした僕は、顔も服も酷く汚れている。赤茶色に。
で、当の小田さんはと
小田さんは訊いてくる。
「ねえ、誰を連れて行く?」
さて、誰を連れて行こう……。
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