天才と凡人

才能

 高3の夏。

 ライブをいくつか成功させ、俺達は新たな分岐点に立っていた。


 響の圧倒的な歌唱力。

 奏音ちゃんの器用さ、作詞作曲。

 詩音のデスポエム。


 気付いてしまったのだ。

 俺には何もない、と。


 俺がこの三人に並んでいるイメージが見えなくなった。



「ほら、俺達もう高3じゃん。どうすんだよ、受験とか」

 いつもの練習中、俺は目下の悩みを響に打ち明ける。

「あ~、俺大学行かないかも」

「え、マジで⁉」

 今時、高卒なんて選択肢は俺の頭にはなかった。

 最近、親から言われた言葉を思い出す。


「大学に進学し、その後は一部上場企業か公務員に就職しなさい」


「ここらが潮時かもな」


 俺と、あいつらじゃ覚悟が違う。

 俺には音楽に一生を捧げる覚悟も、それが出来る才能もない。

 あいつらが、これからもっと大きくなっていくためには、俺は足枷になる。

 だったら、あいつらの邪魔になるんだったら、俺はいない方がいい。


「俺、受験勉強のためにバンド抜けるわ」

「ああ、大学受験とかあるもんな。その間は、バンドは休止だ」

「いや、大学合格したら戻ってくるって意味じゃなくて、本当に抜けるんだけど」

「そんなの絶対イヤだ!」

「え……、篤志抜けるの?」

 奏音ちゃんもショックを受けたような表情になる。

「まあ僕は梅村さん以上の人材が見つかれば構いませんが」

「代わりなあ……。いるかな、暇してるベーシスト」

「おい、勝手に話進めるなよ! 篤志がことりノート抜けるなんて絶対嫌だからな!」

「そんなに怒らなくてもいいだろ」

「怒るわ! 篤志が抜けるくらいなら、ことりノートは解散だ!」

「いやいや、解散はしなくても。俺より上手いベースなんて、すぐ見つかるって」

「だから何で抜ける前提で話進めてんだよ! そんなに抜けたいのかよ」

「出来るなら抜けたくないけど。でも将来的に音楽で飯を食っていける感じがしないんだよ、俺はね。でも、お前らは違う。お前らには才能がある。だから俺がいなくなってもバンドは続けてくれ」

「そんなの、やってみないと分からないだろ! 篤志にも才能ある!」

「お前、本当にそう思うか?」

「え……?」

「俺に才能がないことなんて、俺が一番知ってるんだよ」

「篤志……」

「確かに、梅村さんに才能はありません。既にプロ並みの才能がある姉さんとは釣り合いません。この先も続けていく覚悟がないのなら、ここで止めてもらった方が梅村さんのためかもしれません」

「悔しいけど詩音の言う通りだ。俺には才能も覚悟もない。だから、俺のことは、ここで斬り捨ててくれ」

 皆の顔が見られなかった。

 あれ、何だ、これ……?

「泣いてるんですか、梅村さん」

 詩音に言われて初めて気付いた。

 俺の頬を涙が伝っていた。

「お前、本当はバンド抜けたくないんだろ?」

「俺はっ……」

 涙を拭う。

「……本当は、抜けたい訳ない、だろがっ」

「だったら辞めなくてもいいだろ」

「俺でいいのか?」

「篤志だからいいんじゃん」

「では、これからどうしていくのかを今から話し合いましょうか」

 

 話し合いの結果、大学受験が終わるまで、ライブはしないと決めた。

 でも、しばらく楽器を触れないとなると、なまるから一日一曲、皆で合わせること。

 そのことはトゥイッターとインスタでもお知らせした。

 ファンからは「寂しい」との声も多く頂いたが、仕方ない。

 中には「応援してる」という声も頂き、嬉しいのと頑張らねばという気持ちにさせられた。



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