スカウト

「仕方ないですね。僕は櫻井詩音といいます。そして、ピアノを弾いていらっしゃる、この御方こそが、櫻井奏音、僕の自慢の姉さんです‼」

「詩音と、奏音、ちゃん」

「ええ。奏音様呼びを推奨していますが」

「そこまでしなくていい」

「姉さん、そんなこと言わずに」

「俺達って同い年?」

「私は高一」

「僕は中三です」

「ええ、中学生なの⁉」

 確かに学ランだから、ぱっと見は見分けつかないけど。勝手に入っていいの? 

「ていうか、君は学校いいの? 今日は休みとか?」

「普通に授業ありますけど。別に受けなくてもいいでしょう。僕には姉さんの方が大切ですから。それに停学中ですし」

「えーと、停学中とか言った?」

「ええ」

「中学生で何やらかしたんだよ」

「そこは個人情報なので」

「それで、俺達はバンドに奏音ちゃんをスカウトしに来たんだ!」

「スカウト?」

「姉さんは、あなた達のような低俗な奴らとは組みません」

「て、低俗って……」

「詩音、言い過ぎ」

「申し訳ありません、姉さん」

「バンドのキーボードなんだけど」

「私はピアノしかやったことないけど、いいの?」

「いいよ! 篤志だって本物のベース弾いたことないし」

「初心者じゃないですか! そんな中に姉さんを入れる訳にはいきません!」

「大丈夫だって! 皆できるようになる!」

「お、俺も頑張るからさ!」

「う~ん」

「止めた方がいいですよ、姉さん」

 奏音ちゃんは、迷っているようだった。

「じゃあ、試しに、俺の歌を聴いてくれ!」

 響はギターを持ち、奏音ちゃんの目の前に立った。

 響が歌う。

 また聴いたことない歌だ。即興曲かもしれない。

 奏音ちゃんの表情は読めない。

 響は歌い続ける。また心に来るような歌だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る