vs陽キャ

俺と小鳥遊が話している時に、同じクラスの陽キャが割り込んできた。

「仲良さそうだな、お前ら」

「おう!」

「何の話してんの?」

「今、篤志をバンドに誘ってるんだよ」

「へえ、バンドか」

「お前はバンドやる?」

「いや、やらねえよ。ていうか、梅村がバンドやるなんて意外だな」

「篤志はけ●おんってアニメが好きで、ベース担当の予定なんだ」

 その瞬間、俺の心臓は一気に跳ね上がり冷たい汗が流れた。

「へえ、梅村ってオタク?」

 小鳥遊の声も陽キャの声もけっこうデカかった。陽キャの言葉には明らかにバカにしたような響きがあった。

「いや、俺はオタクなんかじゃ……」

「あー、そういや思い出したわ。中学の時こいつとデブが一緒にアニメの話してたの」

 この陽キャのことは最初から知っていた。中二の時のクラスメイト、その頃から不良っぽい見た目で話したことなんて一度もない。ずっと避けていた。高校になって同じクラスになった時も関わりたくはなかった。人種が違った。

「こいつら現実の女に興味がないんだろ。キモイよな」

「ロリコン? 犯罪者じゃん」

 新しい陽キャが湧いてきた。

 うるさい、黙れ。

 嘲ってくるこいつらに言い返したいのに、唇が渇いて言葉が出なかった。

「なあ、お前ら、もしかして篤志のことバカにしてる?」

 陽キャ共の雑言をきょとんとした顔で聞いていた小鳥遊が口を開く。

「バカにって……?」

「なあ?」

 明らかに馬鹿にしている、下に見ている笑いだった。

「篤志がオタクだったとして、何か悪いのか?」

「悪くはねえけど、キモイじゃん?」

「篤志はキモくねえよ! トイレの後もちゃんと手をせっけんで洗うし、飯の食い方が綺麗だ! ていうか、お前!」

 陽キャAをびしっと指差して言う。デカい声で。

「うんこの後、手洗ってないだろ! お前の方がキモイぞ!」 

「て、てめー、何てこと言いやがる!」

 クラスから失笑と女子からの冷たい視線を浴びた。陽キャ共は耐えられなくなったのか、何処かに退散していった。

 俺はこわばっていた身体がふにゃあと緩んでいくのを感じた。変な脱力感というか。

「小鳥遊、お前はやっぱ大バカだよ……」

「えっ、篤志⁉ 何でっ」

 人の心の裏を読まない、頓珍漢なことも言う、でもいいバカ野郎だ。

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