《1》眩い光の先には

……陸。私たちどうしてこうなっちゃったんだろう……。……そんなの決まってるよね。弱くてみんなに甘えてばっかりな……私が悪いんだよね……。


 私が今までこんな風に考え込むと、陸はそばでいつも励ましてくれた。だが……今回は違う。そんな彼を自ら手放してしまい苦しくなってるのだから……。


 私は彼と別れた後、長い髪を振り乱し、溢れでる涙を何度も手で拭いながら、無我夢中で走った。そして、気が付いた時には公園の近くにあった、神社の参道にたどり着いていた。

 

 3月のまだ肌寒い季節。

 私たちを照らしていた夕陽もあっという間に沈み、辺りは真っ暗闇になって静まり返っていた。

 夜の神社というのは明らかに不気味で、普通なら怖がりな私にとっては、肝試しをしているような気分になるはずなんだけど……。

 

 不思議とこの日は違った。

 

 私は……ここに来るとあのバカにもう一度会えるような……。

 そんなあり得ない期待と――ここに来ないと行けないような……使命感のようなものを感じていた。

 

 


 ……文人。ねぇ、私どうすれば良いのかな……?一人で何とかしようとしても分からないよ……初めて会った時みたいに私に教えてよ……引っ張って行ってよ……。

 

 これまでのバカとの想い出に浸りつつ、木々が生い茂った参道とは呼べない道を、記憶だけを頼りにして、一歩一歩ゆっくりと歩みを進めていく。辺りはとても静かで虫のような鳴き声がどこからと聴こえてくるぐらいだった。私は恐怖心を感じながらも、恐る恐る歩みを進めて行く……

 すると……。

 生い茂った木々の隙間にひっそりとたたずむ、小さな池がある場所へとたどり着いていた。


 


 やっぱりここに来ちゃうな……。本当にここでは色々あったよね……色々。  


 


 ここはあのバカとの特別な想い出の場所だ。

 神社の中にあるとは思えない神秘的なこの場所は、周りは木々が生い茂っている中、『ポツリ』とベンチが一つ置かれ、その上にはご丁寧にも雨宿りが出来るように、屋根まで設置されていた。そこまでしっかりと人が過ごせるようになってるのは、ベンチに座り眺めることの出来る景色が、とても鮮やかで、とても穏やかな場所だからだと思う。そう……。丁度今日のように満月が水面に映し出されているこの日。――私は地元の神社にある同じような場所で、あのバカにをした――いや、してしまった。


 それに……。


 

 3年前の入学式の日――あのバカは今度はこの場所で、初めて私にをしてくれた。 

 泣きながらで情けなかったけど……。でも、どんな形でも私は嬉しかった。

 今でもあの日の事は本当に

 今思い返しても、あの時がバカのことを一番好きになった瞬間だったのかもしれない。


 ――ただ、あのバカは翌日以降、その日の事を覚えていないような態度をとって、私に接してくるからずっと腹が立っていたけど。

 だって寂しいじゃん。私が大切にしている想い出を、伝えてくれた本人が覚えていないなんて。

 

 でもそれも含めて良き想い出だ。


 今はこう思う。


 覚えていても覚えていなくてもいい……。



 ……がいてさえしてくれたら。



 私はバカとの想い出を懐かしみつつ、以前二人で一緒に座ったベンチに座ろうと向かっていた。


 えっ……?こんな時間に誰かいるの?


 そんな私の視界に飛び込んできたのは、先にベンチに座っている一人の人影だった。


 こんな夜の神社で、しかも参道からかなり外れた人気のない場所にポツリと置いてあるベンチに、一人で座っているなんて普通では考えられない――まぁ私も座ろうとはしていたのだけど。ってよくみると女性のような……。

 

 不審に思いつつ……警戒しながらゆっくりと近付いてみた。


 ……えっ。あれって……。


「……お……おばなさん?」


 ――小花さんがなぜこんな所にいるの?あの彼女がこんな時間、こんな場所に……しかも一人で……。


 私は不思議に思いつつ、同級生でもある小花夏蓮おばなかれんさんの名前を呼んだ。――彼女がここに居るなんて意外の極みなんだけど。

 

「――た……たかやまさん!?」


 ――相変わらず可愛い声……こんなところに一人でいたら、襲われたとしても誰も助けてくれないよ……


 彼女も私の声にすぐに気付き、驚きつつも可愛らしい声を出して、私の方に振り向いてきた。


 

 こうして私と、彼女とが二人で向かい合うのは以来だった。



「……どうかしたの?小花さんがこんな所に一人でいるなんて……」


 私は躊躇ちゅうちょすることなく彼女の隣に座り、質問をした。

 だって学園の人気者であり、穏やかで可愛らしい雰囲気の小花さんにとって、夜の公園なんて似合わなさすぎるから。


 そんな彼女の横に座ると同時に、とても穏やかな心地よい匂いが私の鼻腔をかすめた。彼女から醸し出される香水とはまた違ったとても自然な匂いは、髪の匂いなのか、洋服の匂いなのかはハッキリと分からなかったけど、こういうところからも彼女の女子力の高さを感じとることが出来た。

 

 私が質問をした直後から、彼女は手を口元に当てて「クスクス」と可愛らしい声で笑い始めた。


「……小花さん……?」


 ……えっ。何なの?ちょっとどういうこと??私、彼女に何か笑われるようなこと言った?なぜ彼女に笑われなきゃいけないの……!?

 

 私は全く意味が分からなかった。彼女を笑わせるようなことを言ったつもりは、これっぽっちもなかったのだから。

 『何かバカにでもされてるのか?』とまで考えていたほどだ。


 

「……すみません。急に笑ってしまって。前に公園にいた時に大沢君にも同じようなこと……言われたなって思い出してしまって……」

 

 彼女は懐かしむように話していた。

 彼女が言う大沢君こと――大沢文人おおさわふみと――はもう私たちが会うことすら出来ない……

 私の初恋であり、初めて付き合ったのことだ。

 正直言って、そんなの元彼のことを、気安く他の女に語って欲しくなんかなかった。


 

 私たち以外には。

 


 「……文人が……」



 ――えっ……どういうことよ!いつ?どこで?何の話しをしたって言うのよ!私……そんな話し何も知らないんだけど……バカのクセにこんな可愛い子とも会って話しをしてたって言うんだ。ふーん意外に結構モテてたんですね!あー幸せな人生だったみたいで良かった良かった――


 私は文人と彼女が公園で会っていたことがあったなんて、この時始めて知った。

 私の知らない彼を、彼女は知っている。

 それだけで内心凄く気が立っていた。


 「……あっ……ごめんなさい。高山さんの方が辛いのに……」


 

 ――そうですよ。私はあなたとは比べ物にならないくらいの時間バカと一緒にいたんだから!出逢ったのは小学校入る前だよ!?あんなのもこんなのも見られたし……って……あっ~!もうなに考えてるんだ私~!!



 彼女は私の心境を知ってか知らずか、気にしている素振りを見せてくる。

 私の今の心境なんて、彼女に分かるはずもない。

 分かっていたら私の目の前で、バカのことを考えて、笑えるはずがないに決まっている。


 ――色々と考えてたら辛くなってきちゃうじゃん……。あぁ。もう嫌。文人のこと忘れたくても忘れられない……。



「ううん……全然いいよ。それよりその話し、詳しく聞かせてもらえる?」


 

 

 私は平然を装って彼女に言った。正直怒りや悲しみをあらわにするほどの気力も残っていなかったし、彼女に弱みを見せるのも何だか嫌だった。


 「……えっ」


 彼女は私の発言に対して驚いている様子だった。


 ――自分一人だけの想い出にしたいのかは知らないけど、そうはさせてたまるもんですか!だって私だって知りたいもん……私の知らない文人の話しを……。


 

 こうして彼女から、私とバカが別れた直後に、バカに告白をしたことを聞かされた。

 バカがはぐらかした為、失敗には終わったらしいけど。


 この話を聞いた私の率直な感想を言うと……。振られた直後の相手に告白するなんてどうかしてると思う。そんな弱った男にあなたみたいな、可愛い顔した女の子が告白したら成功するに決まってる――実際はバカが意気地無しだったからよかったものの。

 あなたはそんな形で告白してでも、付き合いたいほどバカが好きだったって言うの?それともただ単に、からかいたかっただけ??

 私は疑問に思った。



「やっぱり小花さん……あなたって」 


「はい。今でも変わらず大沢君のこと好きですよ。こんなことになるなら……もう一度想いを伝えておけばよかったって思いますね……」

 

 何……この真っ直ぐな眼差し。彼女は本当に文人のこと……。噓だ!そんなことない……。だって……だって彼女は……。


 この時点で彼女の話す表情から、嘘偽うそいつわりがないことを感じ取ることができていた。

 でも、私は認めたくなかった。

 バカへの想いが私だけじゃないことに……。

 これが独占欲というものなのかも知れないけど……

 彼の生涯で彼を愛したのは私で居たかった。


「――で、でも!あなたは土村君と付き合ってるじゃん!私が聞いた時も、土村君と付き合ってるって――」



 そう彼女はあの卒業式の前の日、ハッキリと私に言った。

 同級生である、土村裕二つちむらゆうじと付き合っていると。



「――私にも事情があるんです!!!!!」



 ……小花さん……なんでそんな必死に否定するの……。そんな必死に否定されたら……



 私の発言をさえぎるように、これまで聞いたことのない勢いで声を発した彼女。


 温厚な彼女がここまでの声を出すなんて、よっぽどの事情があったんだろうと感じた。


 驚いている私に対して彼女は「……大きい声を出してしまってごめんなさい……。あの時は本当のことを言えない事情があったんです。……でも今となっては……本当に……後悔しか……」


 ちょ、ちょっと……私の前で先に泣くなんて……そんなことされたら……私は、泣けなくなっちゃうじゃん……。


 そう言い彼女は両手で顔をおおい、泣き出してしまった。

 温厚ではあるが、普段は演劇部で多くの作品で主役をするなど、どちらかと言えばしっかりもののイメージが強い彼女。そんな彼女が舞台以外で泣き出してしまうなんて……

 どんな事情があるかは知らないが、泣きたいのはこっちの方なんだけど。

 

 自慢じゃないけど私もよく泣く方だ。私も今すぐ一緒に泣き出してしまいたい。

 でも、こうやって目の前で泣かれてしまったら、出るもんも出なくなってしまう。


「ほら。よかったら使って」


 私はお気に入りの、熊の絵柄が入ったハンカチを取り出し、目元を赤くした彼女に渡す。

 私のこの成長した姿を、バカに誉めて欲しいぐらいだ。



「……か……かわいい。ありがとうございます……」


 そりゃお気に入りだもん。いくら小花さんでも、鼻水つけたら怒るからね……。





「でも意外。演劇部のスターで学校を背負って立ってたような小花さんが、こんなにも涙もろいなんて」



「……雪菜が居たからやってこれたんです……。でも最近はあんまり会えてなくて……」


 また涙の勢いが強まった彼女は、私のハンカチで涙を必死に拭っていた。



 あぁ……そう言えば最近、中城ちゅうじょうさん来てなかったからか……何か墓穴掘っちゃったかな……でも本当に、こんな泣く子だとは思わなかったなぁ。

  

「……そ……そうだったんだ。私もね、文人と喧嘩けんかした時はいつも同じような感じになって、こうやって陸や結香になぐさめてもらってたんだ……」


 私は泣いてる彼女を余所目よそめに言った。


 慰めてもらっていたなんて、彼女が泣いている状況だったから話せたのかもしれない。けど……!決して……『バカと喧嘩したことがある』と自慢したかったわけじゃないんだから!

 

 ただ、お互いにある弱さに親近感がわいて、共有したいと思っただけ。

 普段はこんな話し、誰にもしたことない――まぁ親友の結香は知ってただろうけど……


「えっ……高山さんも……? 私も驚きました。こんな可愛いハンカチを持ってますし……もしかしたら私と高山さんって案外似てるのかも」


 彼女は自分の涙で「びちょびちょ」になってる私のハンカチを見ながらいった。


 だから何なの?私だって可愛いのめっちゃ好きだもん。あなたが弱いなら、私もあなたみたいに弱いんだよ。誰かの支えがないと生きていけない女の子なの……。

 

「それってどういう意味よ~私だってこういうのちゃんと好きなんだから……」


 私は何だか少し恥ずかしくなって、自分の胸元まで伸びた髪をいじって言った。 

 そんな照れてる私の姿を見て、彼女の表情が少し明るくなったように見えた。

 

 こうやって自分の弱みを話すと、気持ちが軽くなっていくのはなぜなんだろうか。

 私は徐々に彼女に対しての警戒心が、溶けていくような感じがした。

 その後、貸したハンカチの売っていた場所や、学校のこととか何気ない会話をしばらく続けた。

 卒業後にこんなに人と話したのは初めてだった。

 彼女とバカとの秘密はもうないはずだし、他にバカとの想い出もない。その事実が今の私にとってはすごく大きかった。


 「ねぇ? 前から思ってたけど、どうして私にはずっと敬語なの?」


 彼女は同級生に対して、基本的にタメで話していたのに、私に対してだけは今までずっと敬語で話していた。


「それはですね……私にとって高山さんは憧れの人だからです」



 えっ?彼女の方が十分凄いんですけど……。あなたみたいな子が憧れるほど、私には完璧スペックは持ち合わせてないと思うけど……

  

 学校中の憧れの存在である彼女から、憧れを抱かれるほど私は目立ってないはずだが『どういう意味なのか』と私は困惑していた。


「――私が小花さんの憧れの人? またどうして?」


「……私はずっと高山さんが羨ましかったんですよ……」 


 これまでと打って変わって、重たく口を開いた彼女は、それ以上のことを言おうとしなかった。


 あーなるほど。そういうことね。今までの話しの流れからするとしかないよね。あなたに勝ってるのって。


 私も彼女に心を許しかけていた今――その先を聞きたくはなかった。


「そっか……それならもうタメで話してもらっていいじゃん。だって小花さんに羨ましがられることなんてもうないんだし」

 

「高山さん……。私……変えません……」


「……えっ……?」


「変えません!私、これからも高山さんには敬語でいきます!」


 

 えっ~!?なにそれ?私とこれ以上親しくなりたくないってこと??けっこう私、あなたに心揺らいでたんだけど……今の時間は――


 

「――だって……高山さんが積み重ねてきた時間は永遠じゃないですか。私には一生越えられない壁ですから……」


 

 

 彼女はまた、目に涙を浮かべつつも、微笑んでいた。

 彼女は私とバカが過ごした時間を、これほどまでかと羨ましく思っている。そう思うと私の辛く苦しかった時間も、無駄ではなかったんじゃないかと思えてきた。

 


「それなら呼び方だけでも変えない? おんなじような想いを持ってる仲だし、せっかくこうやって仲良くなれたんだから。あと私で良ければ、中城さんに言えない話しとかあったら代わりに聞くしね!」


「はい……。そこまで言って頂けるなら!本当にありがとうございます……!」


 また涙ぐんでいる様子の小花さん――いや夏蓮ちゃん――だった。

 必死に笑おうとしてるも、羨ましいぐらいの小さくて可愛い顔がぐちゃぐちゃになっている。

 そんな夏蓮ちゃんを見ていると、『今すぐ抱き締めてあげたい』と思うぐらいに愛らしかった。

 

 


「……そういえば夏蓮ちゃんが持っていたアクセサリーって、やっぱり文人のことを思って?」


「はい。これを持ってたら大沢くんに声をかけてもらえるかなぁとか思ったり……」


 やっぱり……。でもそれは私の――


 夏蓮ちゃんはそう話し、自身のかばんから緑色に輝く双葉の形をしたアクセサリーを取り出した。


「文人なんて、このアクセサリーのこと覚えてもなかったんだから……って……えっ?今も持ってたんだ……私も持ってるよ。ほら……」


 なんで持ち歩いてるの……。夏蓮ちゃんは文人から直接もらったわけじゃないはずなのに……。私は文人に直接、首に掛けてもらった。文人と初めてのキスをした時も……ずっと側にあった。だから……


 

 私も夏蓮ちゃんに負けじとアクセサリーを取り出した。


 このアクセサリーはバカと別れた時に、一度ゴミ箱に捨ててしまった。


 ――でも……。

 

 バカからもらい、想い出の詰まったこのアクセサリーを、そのままにしておけなくて……。

 バカが帰った後に、こっそりと探しだし、自分の机の奥に保管していて……


 バカに会えなくなってからは、彼の方身代わりに肌身離さず持ち歩くようにしている。それを……。  


 「これね……。こうやって重ねると四つ葉のクローバーになるんだよ」


 そう言って夏蓮ちゃんの持っているアクセサリーと、私のキーホルダーを重ね合わせた。


「私……。……文人への想いは誰にも負けないから!」



 私は彼女を「じっ」と見つめ宣戦布告をした。

 

 どうやってそのアクセサリーを手に入れたかは知らない。

 でも……。これだけはハッキリと言えた。

 ――ちゃんと言っておかないといけない気がした。

 だから返してもらう。

 これは二人のアクセサリーなんだから。

 夏蓮ちゃんがバカの事をどう思っていようが私には――私たちには――関係ない。

 これは二つで一つ。文人の分は私が――

 

「――私も大沢君への想いなら絶対に負けません!」


 同じく夏蓮ちゃんも表情を一変させ、強い眼差しでこっちを見つめてきた。


「夏蓮ちゃん……でもね……それはね――」



 私が彼女の持っているアクセサリーに触れようとした……

 

 

 だった。



 

「ピカッーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」



 と、目映まばゆいエメラルドグリーンの光が二つのアクセサリーから放たれて、瞬く間に私たち二人を包み込んでいった。


 ――ま、眩しい!!な、なにこの光は……!?


 私たちは光の中で目を開けることすら出来ずにいた。


 そして、私たち二人が次に目を開けた時は、既に謎の強い光に、のみ込まれてしまっていた後だった。





「先輩たち行ったんだ。大沢先輩を


「幸子~! ご飯出来たぞ」


「は~い」









 ……うん……? ……どうしたんだろう私?


 確か神社で夏蓮ちゃんと一緒に……。



 それで緑の光が……って……。

 


「えっ? どういうこと??」


 私は、気が付けば自分の部屋のベッドで横になっていた。着替えた記憶もないのに寝間着に着替えて。部屋の窓のカーテンは閉まっていたが、その隙間から日差しがこぼれ出ていたのも、すぐに目に入った。


 うん!?私とうとうおかしくなっちゃった!??いや確かにここ数日の間に色んなことが起きて普通でいるのもおかしいかもだけど……。でもこんな記憶が飛ぶことなんてあり得るの?神社でベンチに座って……このアクセサリーを夏蓮ちゃんと重ねて……ううっ。頭が痛い……そっからの記憶が……もしかして私お酒でも呑んじゃった!?大人の階段上っちゃったとか!???それなら記憶が飛んでるのも、頭痛いのも納得できるよね~……。私あの後寝ちゃったってこと……じゃあ今日は何日だ……スマホスマホっと……?あれ?なんで前に使ってたスマホがここにあるの?いや~寝ぼけて間違えて置いちゃったんかな……今の使ってるのは、と。ないなぁ……あれ?なんで前に使ってた消しゴム、こんなところにあるんだろう?仕方ない。カレンダーでも見て曜日を……昨日が…………。




「…………………………へっ…………」


 

  

 カレンダーを見て思わず声が出た。必死になって日にちを確認しようとしていた私だったが、私が見つけたカレンダーは自分がこれまで見ていたものではなかった。


 そのカレンダーは三年前の四月の日付になっていたからだ。絵柄も懐かしい当時飾っていたカレンダーだ。


 これってどういう……。ちょっと待って!!?なんでこのカレンダーが今ここにあるの??てかなんで教科書とか中学の置いてるんだ私!?制服もクローゼットに直したはずなのに……。


 それから押し入れや、机の引き出しを開けるなど、自分の部屋の中を片っ端に調べたけど、スマホだけではなく、中学の教科書に、真新しい高校の制服や持っていた洋服など、全てが三年前の状態に戻っていた。


 ……うそ……でしょ。ってことは……………………。


「茜~! 早く起きるようにって何度も言ってる――って起きてるじゃん」


 勢いよく私の部屋の扉を開けて入ってきたのは、私のお母さんだった。


「あっ……お母さん。ちょっと綺麗……」


 思わず声に出てしまった。

 たかが三年、されど三年の変わりようだった。


「えっ?何よ? 朝からおだてても何もでないって。ほら早く着替えてご飯食べて! に遅刻しても知らないから」

 

「――は、はーい」


 この時ハッキリと分かった。


 私は、幼馴染みで元彼――大沢文人おおさわふみと――にもう一度会う為にの入学式に戻っていたことに……。

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