太陽と月の舞踏会

大和滝

鮮音日菜1話 ダメな日

パーンパララッパーンパララッパーンパララッパーンパララン…

 何度同じ演奏を聴いたのだろうか。威風堂々。

「新郎新婦のご入場です!みなさま盛大な拍手でお迎えください!」

 私も着てみたいなんて望みは持たないけど、ウェディングドレスって本当に綺麗。

「新郎新婦によるケーキ入刀です!」

 幸せそう…。

鮮音あざねさん!ぼーっとしてないでお皿配って!」

「あ、すみません」

 別にボーッとしてたわけじゃないのにこの人は、星野淳は私に対していつも当たりが強い。ていうかそもそもこの式のディレクターは私なんだから、普通は星野さんが率先するべきなのに。自分が先輩なのに最近ディレクターを私がよく担当することをよく思ってないのね。

 そんなことを思いながらも私はテーブルにケーキ用のお皿を配ってまわった。みんな笑顔だけれど内心はグツグツしている人も多々いる。どうしてあの子がとか、妬みに恨みもみんな出さないだけで隠してる。まあ、ケーキ入刀なんて茶番見せ付けられたら仕方ないか。

「それでは皆さま、お忘れ物のないように気をつけてお帰りください」

 やっと終わった。面倒臭いのはこれからやる後片付け。食器や飾り付けを片して、上司に報告。報告までがブライタルディレクターの仕事。本当に疲れる。

「食器を優先して厨房に運んでください。手が余った人はテーブルの上にある装飾を全てとって、テーブルも拭いちゃってください」

 みんな早く帰りたいのだろう。テキパキと食器を運び始めた。すると式場内にガシャンと騒がしい音が鳴り響いた。

「どうしました!?」

 私が急いで音の方へ駆け寄ると、そこには粉々に割れた皿と、その場にへたり込んだ女性がいた。彼女の手からは血がタラタラ流れていた。

「あなたは確か雪菜さんよね?すぐに医務室に行ってください。後は私が処理します」

「本当にすみません。ありがとうございます」

 彼女は涙目で血が床にこれ以上垂れないようにおさえながら小走りで部屋を出て行った。私は手袋をはめて一人で割れた皿処理を始めた。


 破片を拾って、血のついた絨毯を拭き、粉状になったものは掃除機で念入りに吸い取った。その頃にはもう三十分ほど前までは華々しく輝いていたホールはほとんど片付いていた。今回のバンケット達は手際がとても良いようだ。

 さて、後は私が上司に今日の報告をするだけ…、本当は問題は起こりませんでした。と報告したかったが、皿が6枚も割れてしまった。雪菜さんと一緒に謝りもしないといけないな…、憂鬱。

 私は重い身体を動かして医務室に向かい、手に包帯を巻いた雪菜さんを引き取って、一緒に私達が働いている「スコルブライタル」の支部に支社に車を出した。そして上司に今日起こった事を隠さずに話した。案の定嫌味を言われた。やれ周りを見れていない…、やれリーダーできていないだの、挙句には信用できないなとまで言われた。なら最初からブライタルディレクターなんて役を与えないでほしい。

 家に着いたらもう11時だった。本当に最近は上手くいかない。子供の頃にみた親戚の結婚式がキラキラしていて好きで、私もこんなキラキラした結婚式をしたいし、何よりつくりたいと思ってこの仕事に就いた。

 最初はいろんな人の結婚式を手伝えてなんだか私の方まで幸せな気分になれて良かった。それなのに、先輩からの嫌味に母からの結婚の勧め。最近はなんだか純白を見るだけでストレスが溜まってくる。これも職業病の一種に分類されるだろうか。ダメだ、もう疲れた。明日は休みだし今日はもう寝よう。

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