隣の席の目堂さんは髪の毛に蛇を飼っている ―そして僕はトマトジュースを飲む日傘男子―

ひゐ(宵々屋)

第一話 学校一の美人に秘密がばれた僕は静かに暮らしたかった

第一話(01) 髪の毛の中に蛇がいる!

 中学二年生になって、一週間が経った。

 ――僕には悩みがあった。それはいじめでも、体質のことでもない。


「あの男子、日傘差してるー」

「知らないの? 二年C組の影山久太郎かげやまきゅうたろう

「美容力高って思ったけど、なんか名前聞いた瞬間めちゃくちゃ暗い奴に見えてきた」

「前髪分厚くて顔半分見えないしねー」


 知らない女子の会話に気にせず、僕は学校へ向かって歩き続ける。


 ……ちょっと気分が悪いかもしれない。最近、朝のトマトジュースが足りない気がする。これまでは一杯で十分だったのに。

 スクールバッグの中に、緊急時用の紙パックのトマトジュースを忍ばせてある。学校についたら飲んでおこう。それで落ち着くはずだ。


 そんな風に考えていると、ばっと何かに襲われた。持っていた黒い傘を、奪われる。


「あっ、傘……」

「何だよお前、こんな傘差しちゃってーシャレてるつもりかー?」

「お前、肌白いってよりも青白いんだよ!」


 あれは二年になって同じクラスになった男子達だ。やかましい……賑やかタイプの奴ら。


 ――繰り返すが、いじめについて悩んでいるわけではない。

 一年の頃も同じことがあった。けれども大きないじめにはならなかった。僕はただ「日傘を差して登下校している」、それだけだからだ。いまはちょっと目立っているだけ。しばらくしたら落ち着くだろうし、陰口も消える。わかっている。僕が陰キャだと確定したら、もうみんな興味をなくすはずなのだ。

 だから、悩みはこれじゃない。


「傘、返して……」


 朝日が眩しい。それでも僕は慌てずにクラスメイトを追って。

 ……数歩進んだところで、倒れた。


 誰かの悲鳴が聞こえた。日光が熱い。だから傘を差していたのに。それにしても早かった。トマトジュースがやっぱり足りてないのかも……僕の身体は日光を嫌い、トマトジュースが足りないとすぐ体調不良になる。

 でも、この体質に悩んでいるわけでもない。


「久太郎くん、大丈夫?」


 誰かの影が、僕に落ちた。人形みたいに整った顔。彼女は艶のある黒いロングストレートヘアを耳にかけながら、僕を見ていた。

 その髪の毛の中に、蛇の瞳があって、その目も僕に向けられていた。舌をちろちろ出している。


 目堂早織めどうさおりさん。僕の隣の席にいる美少女。


 ――困ったことに、彼女はどうやら、髪の毛の中に蛇を飼っている。

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