第200話 刀にまつわる慣用句あれこれ
A美さんとB子さん、二人の女子大生は、喫茶店で待ち合わせていました。
既にテーブルについて、カプチーノを飲んでいるB子さんのところに、遅れてきたA美さんがやってきます。
「ごめんB子、待ったー?」
「全然大丈夫。聞いたよA美。別れたカレと元サヤに収まったんだって?」
「そうなんよー。最初、浮気が分かった時はヤキ入れたろかと思ったけど」
「元ヤンこわっ。浮気相手の天然系の子と、火花バチバチ散らしてたって聞いた時は、マジでやるんじゃないかと思ってたけど」
「誰が元ヤンか」
「単刀直入に聞くけど、元ヤンでも今ヤンでもないよね……?」
「不安そうに聞かないでよ。それっぽいって言われるけど、違うから。でね、その浮気相手の子は、昔から知ってたけどさ、もともと私とはソリが合わない子だったのよ。カレも、その子も、あたしとバイト先が一緒だったんだよね」
「ふむふむ」
「適当な相槌打ってる。ちゃんと聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
「じゃあ、続けるけど。あの子、仕事もできないし、いつもトンチンカンなことばっかり言ってんのに、愛想良くしてるだけで、周囲のオトコたちはチヤホヤしてたワケ。絶対に計算なのよ。抜き打ちテストでも、しれっと満点取る感じの、イヤなアタマの良さ」
「いるよねえ、そういう子」
「そうそう。極めつけは、こっちがヘンなお客の相手で、切羽詰まった状態でレジ打ってんのに、あの子はヘルプも来てくれないし。急場しのぎで、そのお客の対応は先輩に回して、私は通常の仕事に行ったんだけどさ。その日はもう、マジで忙しくて。あの子は、ニコニコしながら、忙しいなら代わりばんこでレジに入りましょうか~、とかノンビリ言ってくんのよ」
「わかる。そういう子に限って、オトコ受けは良かったりすんのよ。太刀打ちできないよねえ、そういう子」
「あ、もう時間じゃん。行かないと。ここの払い、私出すよ。遅れてきたんだし、あんたが飲んでるカプチーノ代くらい」
「いいよいいよ、自腹で。じゃ、行こっか」
さすがは、サムライの国、ニッポンの娘さんたち。日常会話の中に、サムライの武器・刀に関する単語がいっぱいです。
以下、解説。
「元サヤ」は、「元の鞘に収まる」の略で、抜いた刀を再び鞘に収める動作から、「本来あるべき姿に戻る」意味となり、恋愛では「別れた恋人同士が復縁し、もう一度やり直す」といった形で使われます。
「ヤキを入れる」、これは刀鍛冶が高音に熱した金属を水に入れ、急に冷やす「焼きを入れる」が元。刀の硬度を上げるためのものですが、金属を強くする、それが転じて「ゆるんだ気持ちを引き締めさせること、そのための厳しい制裁」という意味になりました。
「火花を散らす」のは、刀を持った両者がぶつかり、打ち合った刃の部分から火花が散ることから、「互いに激しく争う」ことを言います。刀の
「単刀直入」は、刀を一本だけ持って敵陣に切り込むことから、遠回しなことをせずに直接本題に入ることを言います。
「
「相槌」「相槌を打つ」も、刀に関する言葉が発祥。刀鍛冶の師匠と弟子が、呼吸を合わせて交互に
「トンチンカン」も、意外ですが刀を発祥とする言葉。上記の「相槌を打つ」で、師匠と弟子のタイミングが合わないと、鋼を打つ音がリズムを失って「とん・ちん・かん」と聞こえるところから。「頓珍漢」と漢字表記する場合もあります。ちなみに、正しいリズムだと「とん・てん・かん」だそうです。
「抜き打ちテスト」の「抜き打ち」、これはどのような状態でも刀を鞘から抜いて素早く切りつける、いわゆる「居合抜き」という剣術を言い換えた言葉です。前触れもなく、いきなり事を起こす意味で使われます。
「極めつけ」は、正しくは「極め付き」。刀剣などの骨董品で、鑑定で高い評価を受けた物は「
「切羽詰まった」は、身動きが取れず、追い込まれて為す術がなくなること。刀の
「急場しのぎ」、この言葉の元は「
「代わりばんこ」は、刀というか、製鉄が発祥。「
「太刀打ち」は、刀剣の「
「自腹」は「自腹を切る」から。武士が責任を取る時、刀で切腹をしていたことから、「自ら責任を取る」意味になった……と言われていますが、「自腹を切る」と「身銭を切る」という言葉を混同していることも多く、必ずしも「お金」が絡むことには限らないニュアンスが正しいようです。
ちょっと長くなっちゃったー。
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