第184話 「星の数ほど」って、いくつ?
つきあっていた彼女にフラレた大学生の男の子。
アパートの窓から夜空を見上げ、ヤケ酒の缶ビールを飲みながら、彼女との思い出に浸っています。
彼女が写っているスマホの写真を見ては、眼鏡をはずして涙を拭いていました。
そんな時、友人が部屋にやってきました。フラレたという話を聞き、心配して来てくれたのです。
そう落ち込むなよ。ほら、夜空を見上げてみろ。女なんて、星の数ほどいるんだからさ。
よくある「励ましの言葉」でしたが、フラレた彼は、屁理屈好きな上に天文マニアでした。
缶ビールの酔いも回ってきて、一気にまくしたてます。
女なんて星の数ほどいるって? 星の数がどれほどのものか、知ってんのかよ。
大きすぎる数を表現する時に使う「天文学的数字」について、俺は前から言いたかったんだよ!
お前、今、「夜空を見上げてみろよ」って言ったな? な? そうだな?
ここに天体望遠鏡も、大規模な観測装置も無いということは、前提条件は「肉眼で見ることのできる星」ということだな?
俺たちのいる銀河系、その中には少なく見積もっても二千億個の星があると言われている。
そのような銀河が、地球から観測可能な範囲に限ったとしても、宇宙には一千億から一兆あることが分かっていて、観測できない範囲には、もっと多くの銀河がある。星の数がどれだけあるのか、想像すら及ばない。
さて、「肉眼で見ることのできる星」に話を戻すか。
周りに光を発するものが何もない、澄み渡った綺麗な夜空。障害物に視界を遮られないように、高い山頂に登ったとしよう。
そこまで環境を整えた観測可能な空間だったとしても、人間の目では、星は二千個から三千個くらいしか肉眼で見えないんだよ。
しかも、視力が良い人の場合で、それだ。
俺は見ての通り、目が悪くてメガネをかけているし、今晩は月夜、完璧にまん丸な満月!
月の光に邪魔されて、見える星の数はきっと減るだろうな。
大雑把な計算で、半分に減ったとしようか。
トータルで、千個から千五百個だ。
漠然と「数がすごく多い」イメージで「星の数ほど」とか言うけどな、機械に頼らず、空を見た時、人間の限界はこんなモンなんだよ!
二度と「星の数ほど」なんて言うな!
メガネの彼は、そこまで叫ぶと、缶ビールをぐびぐびと飲みました。
聞いていた友人は呟きます。
あのさあ……俺の「星の数ほど」の認識が誤っていたのは認めるけどさ、広い宇宙の中で、人間の目でも見える星が千個から千五百個あるって、普通に考えたら、けっこーすごいことだと思うぞ?
見える範囲、つまりは「自分の知り得る範囲」に、千人から千五百人の女性がいて、そのうち誰かひとりが、お前との出会いを待っていると考えたら、どうよ?
運命の相手は、いないんじゃない、見つからないのでもない。まだ出会っていないだけなんだ。
「これから」なんだよ!
メガネの彼は、友人の熱弁を聞いて、ぽかんとしていましたが、無言で立ち上がると、冷蔵庫から冷えた缶ビールを持ってきました。
一緒に飲むか?
友人は笑顔で缶ビールを受け取りましたとさ。
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