第93話 「創」の字の意味する深さ

 あるアナウンサーが言っていたこと。


 ラジオで「本日は暖かく、好天に恵まれ、絶好の花見日和でございます」などと言ったら、先輩から怒られたそうです。


「好天」とは、アナウンス業界では、別の表現に置き換えるべき単語なのだそうで。


 文脈から、「良い天気」を意味する「好天」だと分かりますが、「荒れた天気」を意味する「荒天」という言葉もあります。


 発音だけなら、同じ「コウテン」。


 文字で見れば区別はつきますが、耳で聞くラジオでは、「コウテンといっても、良い天気の方なのか、悪い天気の方なのか、誤解を招く表現だから」ということらしいです。


 同音でまぎらわしい、という連想で思い浮かぶのが、「ソウゾウする」という言葉。


 発音も同じで、「創造する」のか「想像する」のかは、前後の文脈から読み取るしかありません。


「ソウゾウしい」の場合は、「騒々しい」で100%確定でしょうけど。


 この場のような小説投稿サイトに、自分で考えた作品を投稿する方たちにとっては、「創造力クリエーション」も「想像力イマジネーション」も両方あった方が良いでしょうが、これから話すのは「創造」の方の「創」の字について。


つくる」とも読むこの字は、プラスの意味の言葉ですが、一方で、「創」の字には「キズ」の意味もあります。


 怪我をして病院で診断書を書いてもらう時など、切り傷を「切創」「創傷」という言い方をします。

「ばんそうこう」を漢字で書くと「絆創膏」ですし。


「創」の字に、「つくる」「はじめる」といった意味の他に、「傷そのもの」「傷つける」といった意味も含むのは、「衣服を作る時に裁ちバサミで布を切るところから始める」「料理を作る時に野菜を切るところから始める」といったように、「なにかを始め、なにかを生み出すには、なにかを傷つけ、切るという行為が伴う」ことから来ているようです。


 刀で肉体を傷つけても、やがて治癒して再生する。

 回復の際に、新たなものを生み出す。それが「創」なのです。


「破壊と再生」に近い意味を、一文字で司る「創」。

 なんだかカッコイイですね。


 だから、独「創」的なものを、「創」作するには、いろんな意味でキズを伴うもんなんですねえ……。


 もうちょっと頑張ろうっと、俺。

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