第39話  「登竜門」と「鯉のぼり」の関係

 陸に揚げられてぴちぴちとはねているだけの、みずポケモン「コイキング」も、レベルを上げると「ギャラドス」になったりします。

 進化後はヒゲしか共通点がないじゃん! 原型なさすぎ! なんでそもそも鯉が竜になるんだよ!


 そんな疑問を抱いていた人に「おそらく、これが由来じゃないかなー」という話をしようと思います。


 出典は、中国の古文書『後漢書・李膺伝(りようでん)』に出てくる話。


 その中に、「中国の黄河上流には、登り切った鯉は竜になるという言い伝えがある、竜門(りゅうもん)と呼ばれる急流がある」と記されています。


 紀元前二世紀、後漢王朝の時代の中国、李膺(りよう)という政治家は、乱れた世の中でも、正しくまっすぐな政治を貫いていました。

 人々は、李膺と親しくなり出世していった者たちを、厳しい環境の中で成長することの比喩として「竜門を登る」と称したそうです。


 それが後の時代に伝わり、難易度の高い官僚の試験に合格することを「竜門を登る」と表現するようになり、“そこを突破すれば出世につながる、難しい関門”自体を「登竜門」と呼ぶようになりました。


 現在でも「このオーディションは芸能界への登竜門だ!」みたいな使われ方をしますが、「登竜門」の語源は中国にあったわけです。


「鯉の滝登り」は有名ですが(そもそも「滝」という漢字も、よく見るとさんずいに「竜」ですね)、鯉は川の流れに遡ったり、はねて滝を上っていくことから、「逆境に負けない男の象徴」「困難に打ち勝つ立身出世の縁起物」とされる習慣があります。


 一匹の「鯉」が、激流に逆らいながら「竜門」を登り切り、鯉は「竜」に変身して天に昇って行った……その考えは、日本に伝わり、鯉が「竜門」を抜けて空に舞い、竜になる過程……それが空を泳ぐ鯉、「鯉のぼり」として変化したようです。


 江戸時代には既に、将軍の世継ぎとして男子が生まれると、家紋のついた旗や幟(のぼり)を立てて、祝う風習がありました。

 一般の武家にも広まり、男の子が生まれた印として幟を立てるようになり、庶民の中でも裕福な商人などは、武家に負けまいと模倣を始めたわけです。


 その時に、中国からの伝承と、立身出世のシンボルだった「鯉」の飾りがミックスされ、町人たちは「鯉のぼり」を作って、高く掲げるようになった……という説があります。鯉が「登る」から「鯉のぼり」なのか、元々の「幟(のぼり)」も意味しているのかは、定かではありませんが。


 最初は一匹だけの「鯉のぼり」でしたが、明治時代あたりから緋鯉や真鯉などが加わり、昭和初期にはもっとカラフルな鯉が加わっていき、「家族」を意味するスタイルに変わっていきます。


 鯉や竜、英語でいうと「カープ」とか「ドラゴン」ですけど、野球は関係ない話でした。



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