第6話 「見ざる・聞かざる・言わざる」には四匹目がいる

 栃木県・日光東照宮の神厩舎の三猿「見ざる・聞かざる・言わざる」は、目を隠している猿、耳を塞いでいる猿、口を押さえている猿といったユーモラスなポーズで知られています。


 この「見ざる聞かざる言わざる」という教えは、「自分に都合の悪いことや、人の欠点などは、見ない、聞かない、言わない方が良い」という道徳をベースとしており、世界中に似たような教訓があるそうです。


 一説では、中国の思想家・孔子の「論語」が由来という説もあります。

教えを分かりやすく人々に説くために、猿を使って表現したと考えられているとか。


 では、四つ目の戒めが存在するのを御存知でしょうか。


 それは、「せざる」です。


 中国には、原典を正確に再現した「四猿」の彫像があり、目を隠した猿、耳を塞いだ猿、口を塞いだ猿の隣に、四匹目の「股間を隠す猿」の彫像も、ちゃんといるのが確認されています。

 股間を隠す、つまり「性的なことに対する戒め」を教えているんですね。


 日本では「四」は「死」に通じる「忌み数字」であるから「四猿」を避けて「三猿」にしたとか、露骨に性的な表現をおおっぴらには……ということで隠されたのではないか、と言われていますが、理由は定かではないそうです。


「三猿」といえば、オカルト好きにとっては、


「日光東照宮の北側の彫像は、見ざる・聞かざるの二匹の猿しかおらず、なぜか三匹目の猿は、漆喰で覆われて隠されている」


 という話が有名です。


 北側の「三匹目の猿」は、東照宮の建立当初(1617年)から存在し、その当時から漆喰で厚く塗り固められ、隠されたそうですが、猿の姿形に関する情報、漆喰で隠されている理由などは当時の記録にも一切残されていないそうです。


 安政の大地震(1850年代)で漆喰の一部が剥がれ落ち、「三匹目の猿」が部分的に見えたことがあったらしいのですが、神主たちは見ることを忌み嫌い、近寄ろうとしませんでした。

 神主は、社殿に出入りしていた馬子に修復を命じましたが、漆喰を塗り直した後、その馬子は怪死を遂げたという話……。


 なんだかホラーな感じになってしまいました。


 最後にちょっとほっこりする話で締めたいと思います。


 埼玉県の秩父神社には、「お元気三猿」といって、「よく見て・よく聞いて・よく話す」という、まったく逆の発想の猿の彫り物があるそうです。

 面白い発想ですね。

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