木樵の男 短編集

かわなお

虚しさだけが残る日々

 おれは今日も木を切り倒す。

 明日も明後日も変わらず、おれは木を切り倒す。


 古い大樹には精霊が宿る?


 誰がそんなこと言ったか知らねえが、知るかそんなもん。

 若木だろうが何だろうが関係なく、おれは木を切り倒す。


 誰かが止めに入る。


「いい加減にしろ! そんなんじゃ、身が持たねえぜ」


「うっせー。仕方ねえだろうが! おれがやらなきゃ、誰がやるってんだ」


 この集落にいる木こりは、おれだけだ。

 誰かがやるしかねえってんなら、おれしかいねえだろう。


「くっそ、おれだってなあ、ほんとはこんなことしたくねえんだよ。でもなあ、仕方ねえんだ!」 


 そう悪態をついたところで、何かが変わるわけでもねえ。

 だからおれは、木を切り倒す。


 そんなおれの腕を掴む者がいた。


「いい加減にしろ。もうおめえの身体はボロボロじゃねえか。この森とおんなじなんだよ。このままじゃおめえも死んじまうぞ」


「うっさい、うっさい、うっさい」


 おれは握られた腕を振りほどき、また斧を構える。

 だが、そいつも諦めない。


「よく見ろ! もう、全部真っ赤じゃねえか。手遅れなんだよ。この土地は死んだんだ」


 おれはその言葉に、わずかばかり気持ちが揺らぐ。


 ふと辺りを見渡してみれば、空には澄んだ青空が広がっているのに、おれの周りは全てが真っ赤だ。


「くそっ、くそっ、くそっ。おれは一本でも生き残っている限り、諦めねえぞ!」


そう叫んでみても、おれだってわかっていた。


「いや、もういい。お前は頑張った。これ以上は……」


「やっぱりおめえも悔しいじゃねえか」


「ああ、悔しい。あれだけ精魂込めて育てたのになあ。今度は松くい虫なんかにやられねえ、松を植えようや」


  悔しさの滲んだ顔でおれの肩に手を置くそいつを見て、おれもまた悔し涙を流す。


 松くい虫め、あいつらは俺達の敵だ!

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