山田の新世界紀行

今日の気分はトマト

第1話 山田と僕

 これは僕が山田から聞いた話なのだが、というか、僕は山田から聞いた話しかしない。たとえ友達から「自分にまつわる面白い話をしてよ」と話を振られても、山田の受け売りしかしゃべらないだろう。しかしそれで事は穏便に済んでしまう。相手は満足してくれるし、僕も丸くおさまってほっとする。山田は俺の処世術だ。

 山田は本に囲まれた部屋に住んでいる。僕と山田が通っている大学のすぐ近くにあるうらぶれたアパート、103号室。部屋を開けるとすぐに本の雪崩が襲ってくる。僕はほいっと慣れきった動きで山田の部屋に入る。

 部屋は本で埋め尽くされている。本、本、教科書、小説、自己啓発本、本、本、本。部屋の真ん中に本が山のように積まれている。それに背をもたれかけながら、本を読むのが山田だ。

「やあ」と僕は声をかける。すると、山田は僕のことを見てにっこりと微笑んだ。

「また面白い話をもってきたよ。聞くかい?」

 山田はそう言って、本を閉じた。

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