敵同士だったうさみみ少女と甘々生活!

朔(ついたち)

第1話 兎は舞い落ちた

ある秋の朝、俺は王都からほど近い野山で魔物退治をしていた。


秋は実りの季節である。この時期は収穫を迎えた果物や木の実を目当てに、あるいは紅葉を見にくる人々も多い。傭兵である俺の仕事はそんな人々に危険が及ばないように魔物を予め退治しておくことである。




「んー、まだ朝も早い時間だから、景色を独り占め出来るな。」


軽く伸びをする。辺りを見渡せば赤や黄色に色づいた木々の葉っぱが一面に広がっている。足元を隙間なく埋め尽くす落ち葉の絨毯も美しい。秋の朝の少し冷たい空気も相まって非常に清々しい。




ガサッ!




秋の野山の趣を楽しんでいたが、仕事をしなければならないことを思い出す。水をさされた気分だが、ギルドが出す報酬は討伐量に合わせた出来高制なので文句を言ってもいられない。焦らずおもむろに剣を構える。魔物に反応はない。抜剣は済んだので呼びかけてみる。近づくよりは安心だ。




「出てこい!怖いのか?」


魔物に言葉が通じるわけではない。しかし気持ちで負けていては勝てるものも勝てない。虚勢を張る。




「こ、怖いわけないだろう!月の士官であるこの兎に怖いものはない!」


返事が来るとは思っていなかった。木の陰から出てきたのは拳銃を構えたうさ耳の少女である。明度の高い銀髪と真っ赤な瞳を携え、赤い軍服を身にまとっている。俺も王都に住む獣人であるが、俺達とはどこか雰囲気が違う。




「お前は何者だ?敵か?」




「そうだ地上人。我々は月から来た地上侵略部隊だ。」




「我々!?やはり仲間がいるのか?」


マズい。格好を見てすぐに逃げるべきだったか?部隊で行動しているのであればもう囲まれてしまっているのかもしれない。地上侵略部隊とか月から来たとか訳の分からないことを言っているが、敵対しているのは確かだ。クソッ!どうする?




「仲間は……その、今は連絡がつかない……。3日前の満月の日、大気圏突入時に機体が壊れた……。この周辺と月に、メーデーを出している……。」


眼の前の少女がうつむいて自信なさげに答える。




正直何が何だか分からないが本当のことを言っているならチャンスだ。相手は視線が下がり拳銃の照準もブレブレだ。本当に今こいつ1人だけなら勝てる。今だ。今やる。




相手に向かって駆け出す。落ち葉を踏みしめる音で我に返ったようだがもう遅い。構え直した拳銃を剣で叩き落とした。すると少女はその場に倒れ込む。そんなに強い衝撃ではなかったはずだが……。




「…………!!」


倒れた少女を見ると白い頬が紅く染まっており、息を切らしている。思わず額に手を当てた。少女は抵抗しない。いや、出来ないのだ。




「すごい熱だ……!」


40℃はある。こいつはさっきまで気力で立っていたのだろう。腕には魔物に噛まれたような傷もある。




「……っ!」


額から手を放す。どんな事情があるのかは知らないが、こいつはさっきまで俺に銃を向け、さらには地上侵略をしようとしていた敵だ。ここで殺さなければ……いや、その必要もない。このまま秋の山に放置して野垂れ死ぬのを待てばいい。それだけなんだ。




立ち上がり少女の方を向いて剣を構えたままゆっくりと後ずさる。その調子である程度距離をとって、そのまま王都に帰ってギルドに報告するだけだ。




距離は取った。少女から目線を外し駆け出そうとした。




「ごめん……なぁ…………銃を、向けて…………」




「!!!」


命惜しさに、自分可愛さに言っているだけだ。騙されるな。そのまま足を前に出せ。




「くっ……!!」


クソッ……なんで……!気づいたら踵を返して少女の方に走り出していた。




「お前…………何を……………。」


少女を背負い、息を切らしながら山を駆け下りる。




「自分だって何してるか分かんねぇよ!!」




「そうか……お前…………優しい……やつだなぁ………。」


さっきまで俺の命を狙っていたやつとは思えない発言に調子が狂う。まあいい。こいつを病院に連れて行く。それまでの付き合いだ。

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