14.ポーション(特大)の使い道

薬師ギルドを後にして、時計を見ると時刻が17時過ぎになっていたので、枕の誘惑亭に帰る事にする。

今日は新しい読み物が沢山あるから、嬉しいな。



ふんふふん♪と鼻歌歌いながら帰ると、なんだか噴水広場の入り口付近に人だかりが。

なんだイベントか?


ひょこっと覗くと人が倒れていた。


ザワザワした人だかりの中から会話を盗み聞く。



「貴族のよ、なんて言ったかな、あの悪評高い。」

「ジワール男爵だよ。なんか悪徳商人と手を組んでるってもっぱらの噂だ。」

「そうだジワールだ、そいつの馬車が轢いたらしいぜ。しかも平民風情が道の妨げだとか言って蹴って道を開けさせたって話だ。自分だって成金で貴族地位買った平民あがりのくせに。」

「マジかよひでぇ話だな。腕も足もつぶれてるじゃねーか。ありゃーこの街の神殿の回復師さまぐらいじゃ治しきれねーぞ。」

「それがよ、一応死んだらまずいからってその場にいた奴捕まえて神殿の回復師連れてこいって金渡したらしいぜ。それで回復師さまの治療代に届けばいいけどよぉ」

「神殿っても無料じゃねーからな。治療っていくらすんの?」

「知らねぇ。でも高いからって薬師のとこでなんとかすんのが普通だろ?」



......成る程。これは提出するわけにいかなくなったポーションの出番だな。


ちょっと遠巻きの人混みを抜け出て、倒れている人のとこに近づく。



「あのー、俺すげえいいポーション持ってるんだけど、ポーションってかければいいの?飲めばいいの?」

「ーーーうぅ......」



うずくまってうなるだけの怪我人。肺やられてんのかな。飲む方がよさそうだけど.....。とりあえず例の凄いポーション出したけど途方に暮れる。



「おーいにいちゃん!ポーションぐらいじゃ治んないと思うぞ!」

「いやないよかマシだろ。にいちゃん!普通飲んだ方がいいんだけどよ!ポーション不味いからかけてる奴多いぞ!」



野次馬からそんな声が。成る程。コクン、と頷いておいて、とりあえず飲ませられるか蹲ってる男の人の上半身を起こす。



「聞こえてますかー。ポーション飲めますかー?」

「う....うぅ....」



ダメだこりゃ。潰れてる右側手足を上にして、ポーションの半分くらいをかけていく。直ぐにポワッと光り、ムクムクっと手足が元通り。

そこで顔をうかがうも、まだ苦しそう。やっぱり内臓ダメージ受けてるんでは。

少し考えて、異空間から漏斗じょうごを取り出して......消毒するのにまたウォーターボール出してー、とか面倒だな.....。魔法作ろう。


漏斗に向けて『浄化』と呟くと、温水と光が出現。持ってる手ごと包み込む。消毒作業の流れをイメージしたから、洗濯みたいにぐるぐる回転して、光と温水が消えると乾燥までされていた。


倒れている男の人の上半身をまた起こして、漏斗を口に無理やり入れる。あんまり深くするとガボバッてなるから、少しね。



「お兄さーん、ポーション流すからねー、飲むんだよー?」



返事はないが眉間みけんしわを寄せながらも小さくうなずいたようなので、少しずつ流してやる。

ーーーコクン...コクン....


2度程喉仏のどぼとけが上下すると、お兄さんの身体が光った。

なんて言うか、全身発光。


光が収まると、お兄さんは目をパチクリ。え....身体が痛くないと呟き、手足も確認。支えていた俺にやっと気づいたのか、俺の顔をボケた顔で見る。改めてお兄さんの顔を見ると薄い茶色の短い髪に目が少し垂れ目のイケメンだ。俺と同じくらいか下くらいかな、とは思ったけどお兄さん呼びは続ける。



「お兄さん、もう痛くない?」

「ふぇ、あ....うん。」

「よかったね。んじゃ、立って、無事アピールして。みんな心配してるよ?」

「え.....」



うながされるままお兄さんが立つと、野次馬達が大歓声を挙げる。



「よかったな!」とか「あんな酷い怪我でよく助かったもんだ!」とか「あのポーションなんだよ!」とかざわめきが凄い事になってきたけど、俺はうまいこと最初のお兄さんが揉みくちゃにされている所で抜け出した。



ポーションの出所なんて聞かれても困っちゃうもーん♪



夕食食いっぱぐれたら大変、と急ぎ足で宿屋に帰った。



ーーーーーーーーーー

ーーーー


宿屋・枕の誘惑亭にて、夕ご飯を食べた。メニューはシチューとパンとサラダ。黒パンとかの固いパンではなく、ちゃんと白いやわらかなパンだった。

シチューもミルクと野菜の甘さがよく出て、美味しかった。



夕ご飯を食べて買い取った調合レシピを備え付けのテーブルに広げて読んでいると、部屋のドアをニコちゃんが叩いた。

洗浄魔法をかけてくれに来たらしい。忘れてたわ。



「息止めてて下さい!」



なんのこっちゃ、と思いながらも息を止めると、全身を温水と光がグルグル流れるようにまとい、光が弾けて温水も消えた。床も服も髪も肌もどこも濡れてない。

ーーおりょ?これは俺の使った浄化の魔法とそっくりでない?



「ありがとう。洗浄魔法って水と光が関係してるんだね。それぞれの属性に適正があるの?」

「そうなんですー!火属性もあって一応3属性なんですけど、魔力が少なくて、生活魔法くらいしか行使できないんですよぉ〜」

「後天的に魔力も多くなる場合もあるって本に書いてたよ。」

「そうなんですか!?あ、でもできる回数増えてるかもしれません!えー!私にも魔法使えるかなぁ!」

「ライトのスキルはないんだよね?魔法でライトってあるよね。試してみたら?試す時は眩しくしすぎないように注意しないといけないけど。」

「そうですね!やってみます!あ、そういえば、知ってます?今日噴水広場で酷い事故があって、謎の美少年がすんごいポーション使って治してくれたって噂!」

「ーーーへぇ。それで?」

「酷い貴族様が使いに出した事故現場にたまたまいた人が神殿の回復師さまを呼んで戻ってきた時には大騒ぎ中で、そういえば治してくれた人に御礼を、謝礼金を、て話になったら、その人もういなかったみたいなんです。」

「へぇー。」

「それでね、どんな人だったんだって神殿の回復師さまが聞いてまわると、怪我してた人も含めて、みーんな揃ってすんごい美少年だった!ってだけ。あんなすんごいポーション使ってくれたのに何にも貰わないでいなくなるなんて天使みたいな人もいたもんだって話で持ちきりで!」

「へーー。」

「......アキさん、すんごい美少年ですよね?」

「んー?俺、18歳よ?そこは美青年って言ってほしいなぁ」

「あ、そっかぁ!美青年ですよね!美少年ではないかぁ!」



なんとなく誤魔化せたっぽい。

魔法頑張って、と異空間からクッキーを出してプレゼントすると、ニコちゃんはとても喜んで出ていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る