10.本屋と魔法とお金

噴水広場と宿屋のちょうど中間地点に本屋があるのは分かっていたので、気持ち早歩きで向かう。


本を開いたイラストに、羽ペンのイラストが描かれた看板があり、文具も売ってると分かる【ラオ爺の本屋】。ラオさんって爺さんがやってる本屋なんだね、と、凄くわかりやすくていいと思う。



《ーガララン》



年季が入った音をドアベルが鳴らす。入った瞬間に紙とインクの匂いがして、嬉しくなった。



「ーーらっしゃい。.....ごゆっくり....」



ニコニコと入った俺と、入って真っ直ぐのカウンターに座る無口そうな、若干頑固者臭漂うお爺さんと目があったので、会釈だけするーーと、『ごゆっくり』いただきましたー!



端から端まで見たくなるのを我慢して、今は魔法関連の本を探す。速読と瞬間記憶がデフォルトなので、ざっと眺めつつ入り口に立ってる両方の本棚を通り過ぎ、右に曲がり、また両方の棚を眺めて探す。2列目が終わり、3列目ー、と思った角に、発見。『基礎の魔法』隣に『詠唱と無詠唱の威力の違い』『魔法詠唱文句集』『魔法詠唱文句集2』『魔法詠唱文句集4』『魔法詠唱文句集5』『魔法で空は飛べるのか』『スキル集』『生活魔法と私』『賢者と言われた魔法使い』ーーーーetcーーーー待て。魔法詠唱文句集3はどこいった。


物凄く気になって本屋の全ての棚を探す。

結局戻ってきて、がっくりと肩を落とす。

なかったし......。


気を取り直して『基礎の魔法』を手に取った。


ーーーーーーーーーーーーー


この世界、『ラピス』において、動物という動物には魔力が内包されている。ウサギや犬も然り、魔獣然り、魔族、エルフ族、獣人族、ドワーフ族、人族と、赤子から年寄りまで全ての動物にだ。


あると言っても使えるかというとまた別の問題となる。

魔族やエルフ族は高魔力の者が生まれやすい、獣人族には魔力の少ないものが生まれやすいだとか、そういう種族による傾向は確かにあるが、一概に括れない。魔族でも魔法をいっさい使わず武力のみで戦うものがいたというのもそうゆう事だろうし、高魔力の獣人族の宮廷魔法使いも存在する。


魔法には水属性、火属性、木属性、土属性、風属性、闇属性、光属性、無属性という属性がある。

偶に氷や雷といった魔法を使いこなす者がいるが、これは水属性の上級魔法だか概念が特殊でレベル5の者でも使える者は稀である。上記8属性が属性魔法だが、多くが1つないし3つが一般的な適正である。4つ以上の適正がある者は、まず間違いなく魔力も高く、高名な魔法使いに成長していくであろう。水属性の基本はーーーーー

ーーーー

ーー

ー中略ー


ーー以上の事から、魔法とは魔力を使い、現象を想像、実行する事である。この過程において、物質をよく理解している事が魔力消費節約の要となるだろう。

次に詠唱文句についてだが、これは前述のように物質をよく理解して想像できるのであれば、要らないと考える。声に乗せるとイメージもつきやすい事から多くのものが詠唱文句を紡ぎ、上級魔法ともなれば長い詠唱文句を一生懸命覚え、実行する。威力の大小があれど、詠唱文句は人によって多少違ったりする。それはつまり、詠唱文句は絶対ではないとの証明ではないかーーーーー

ーーーー

ーー

ー中略ー


属性魔法の他に、生活魔法と言われるものがある。

属性魔法の魔力消費量と比べ、微々たる魔力で行使できる生活魔法は、スキルとして存在する。スキルが全て生活魔法というわけではない。実際複合魔法に成功した者が固定化としてスキルとして出現したり、魔法とは関係なさそうな大工スキルや木工スキル、商人の子に稀に出現する収納スキル、料理スキルも存在する。これは技術補正が入り、例えば料理スキルなら持ってるものと持ってないものが作る料理の味はやはり持っていた方が美味しくなるだろう。実はスキルは無属性なのではないか、という見解があるが、そもそも分類されないのを総評して無属性なのだ。物を浮かせる浮遊魔法、重力魔法に始まり、転移ともなれば超高レベル、超高魔力の者しか扱えないが、ともかく、無属性は計り知れないから無属性なのだ。本来は一緒くたにするものではない。


微々たる魔力で行使できる、という観点から括られた生活魔法でわかっているものは、現存では以下となる。

着火ー薪や炭に着火する

洗浄ー物や人に洗浄をかける

ライトー灯りをつける

鑑定ー物や人に鑑定をかける。但し相手が高レベルの場合は弾かれる。

念写ー文章を紙等に複写できる。高レベルの者の中には映像を念写できる者も存在する。特に出版業界には欠かせないスキルだ。筆者も勿論お世話になっている。念写士には本当に感謝だ。

収納ー物を異空間に収納できる。商人に収納スキル持ちが稀に存在する。但し出し入れには魔力を必要としないが、レベルと魔力量に比例して収納できる体積が変わるらしい。時間経過がない事から、食材利用が1番適しているだろう。


属性魔法、生活魔法と絡めてスキルも少し紹介したが、いずれもレベル5まで存在し、レベルが上がるほど効果上昇や継続時間増加、消費魔力減少等の現象がおきる。

さらに、本人自体のレベルもあり、さらに効果等も本人レベルによってあがる。こちらは99まであるらしいが、長命な魔族やエルフでも到達している者は何百年と存在していないーーーと言われている。


鑑定魔法がなくとも、自分自身の事は『ステータス』と唱えれば確認できる。『ステータスオープン』で他人にも見えるようになるので注意してほしい。誰かに「ステータスオープンしてほしい」と言われても、絶対にやめた方がいい。それは過去を振り返っても尊大で恥ずかしい行為であり、「裸になれ」と言われている事と同義である。

よって、各ギルドや大きな街にある鑑定水晶では、犯罪の有無と、名前、年齢、種族ぐらいしか表示されない事になっている。高レベルの鑑定士でも、見る時には相手に違和感を与えるらしく、犯罪に関わっていなければ、人に使われる事は滅多にない。


そのような事から、レベルが例え99になっていたとしても、本人が申告しなければわからないままなのである。


ーーーあぁ、もし今世でレベル99の者がいるのならば、変態だと言われても是非ステータスオープンを頼みこみたいものである。




ーーーーパタン



すげえ。この本の著者、会話じゃなくて文章なのに脱線しまくりで自分の考えがダダ漏れで変態で面白い。


1人満足して、未購入である事で速読と瞬間記憶を使いペラペラと高速で読んでしまったものの、ゆっくり見返すのもいいなと今読んでいた本を含め、他の本も選ぶ。例の3巻のない魔法詠唱文句集、スキル集、先程全ての本を眺めたので特に気になったタイトルのものを選んでいく。両手におさまらなくなり、目の前が見えなくて落とさないようにプルプルとカウンターに置く。



「また随分とーーー坊主、本てのは高いぞ。大丈夫か?」

「俺アキって言うの!ラオさんであってる?」

「質問に答えたなら名前呼びも許してやる。」

「大丈夫だよ!俺お金持ち!」

「そうかよ。どれーーーーーーーーー全部で大銀貨3枚と小銀貨5枚だ。」

「ほいほい。」



チャリチャリと懐から財布を出し大銀貨と小銀貨を出す。

あ、無口そうだし、ついでに聞いちゃお。



「ね、ラオさん、この小金貨って大銀貨10枚分?大金貨は小金貨10枚分で大銀貨100枚分?」

「ーーーな。馬鹿、坊主、坊主の言う通りだか、そんなもん気軽に出すな!盗賊じゃなくても襲われるぞ」

「うんごめんね。でもラオさん口硬そうだしいい人そうだから。他のお客さんもいないから。ついでにこの白いのなんて言うの?これも大金貨10枚分?」

「なーーーーんてもの見せやがる!白銀貨じゃねーか!チッ、そうだよ!その通りだからもうしまってくれ!心臓に悪い!」

「うんごめんなさい。ありがとう教えてくれて。」

「ーーたくっ、どこの大貴族のボンボンなんだよ......貴族でもポンポン出すもんじゃねーぞ。ーーーそれで?これをどこの屋敷に運べばいいんだ?」

「貴族じゃないけどね。屋敷もないし、どこにも運ばなくていいよ。」



言いながらにこやかに異空間を開いて、買った本を入れていく。さっきの本に生活魔法に分類されるって書いてあったし、異空間開くの問題なくてよかった。隠さなくていいのはでかい。



「おまけに収納スキル持ちーーー。坊主、財布も収納に入れておけ。ジジイの心臓がもたんわ。」

「普段から入れてるよー。スリとか怖いし。」

「懸命だな。」

「さてと。これから冒険者ギルド行くんだ。また来るね」

「ーーーあんまり驚かせんでくれるならまた来い。」

「あ、そうださっき買った本!魔法詠唱文句集ってあったでしょ?3巻だけないんだ。この店中探してなかったから、入荷するような事あったら、とっといてぇー。」

「ーーーあぁ、あれな。なかなか揃わないんだ。抜けた巻が揃うと、また別の巻が売れてしまってな。3巻な、発注かけとくよ。」

「お願いします。ーーじゃ、またねー!」



上機嫌で手を振り、店を後にする。

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