第五話 私らしく
あれから散々駅前や大学のキャンパスを探し回ったが、どこにも
疲れた足取りで自宅アパートの鉄階段を登る頃には既に日も高くなっていて、ひょっとしたらそんな私を見て彼が「朝帰りだ」なんて冗談めかした笑い声を掛けてくるかなと思ったけれど、全然そんなことはなく、ただ私の足音だけが響いて消えていく。
玄関の鍵を開け、一瞬覚悟してから、ドアノブを捻った。
日差しが奥のリビングを照らしていたけれど、誰もいない部屋のむわっと温められた空気が漏れ出してきただけで、そこには
もしかしたら。そんな思いで冷蔵庫を開けてみた。でも中身は昨日のままで、何も変わっていない。飲みかけのペットボトル、ラップを掛けた残りの焼き
部屋に戻り、疲れた体をそのまま畳んである布団の上に投げ出す。
何日も干していない湿気を含んだそれが私を受け止めてくれたけれど、その背中に飛び乗ってくるきょう子はいない。
何か疲れてるんじゃない? と訊いてくるキョウコはいない。
バカにして文句ばかり言う明日子すらいない。
私は一人だ。
違う。独りだ。
部屋の大きさは変わっていないのに、こんなにも広かったんだと思って、首筋が涼しくなった。
だから私は横になって赤ん坊のようにぎゅっと丸まり、意識を閉じる。眠ってしまえば、何もかも気にせずに済む。心や体がいっぱいだと感じた時、私はいつもこうしていた。
でも最近は全然こんなことする必要なかったな。
そのことに気づいたからか、閉じたままなのにその目元が濡れてしまった。
でも翌日も次の日も誰もいなかった。私は一人で、四人分の食器を並べて朝食を食べた。
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