第24話 ローマにて
ローマは見どころが多すぎる。
素晴らしい観光名所の数々があり、わたしは楽しんで歩き回った。
美味しいレストランも数多あり、たらふく食べた。
だが突如として、わたしを「飽き」が襲った。
ローマに飽きた。
イタリアに飽きた。
ヨーロッパに飽きていた。
コロッセオとフォロ・ロマーノの観光を終えた後、わたしは真実の口広場に立ち寄った。
古代ローマの下水道の蓋だったと考えられている顔のある円形の石が「真実の口」だ。
「嘘を言った者がこの口の中に手を入れると、手を食べられてしまう」という中世からの言い伝えがある。
わたしは冗談のつもりで「わたしは嘘を言ったことがない」とつぶやいてから、やや不機嫌そうに見える顔の口の中に右手を入れた。
その瞬間、手が噛みちぎられたかのような猛烈な痛みに襲われた。
「ぎゃーっ!」と大声で叫んだ。
周囲にいた観光客が驚いたり、苦笑したりしていた。
苦笑した人は、わたしが人を驚かせるために演技で叫んだと思ったのだろう。
演技ではなかった。
本当に手首が嚙み切られたと思った。
それくらい痛くて、すぐに手を引き抜いた。
幸い、食いちぎられてはいなかった。
だが、手の甲に人の歯型のようなものが残っていた。
天罰に当たったのだろうか?
スペイン広場で屋台のジェラートを食べた後には、トレビの泉に立ち寄った。
「肩越しにコインを投げて、泉に入ると、再びローマを訪れることができる」と言われていることで有名な観光地だ。
泉は広く、難易度は極めて低い。
わたしは泉に背を向け、肩越しに10セント硬貨を投げようとした。
コインを放す瞬間、突風が吹いて、体勢が崩された。
コインは水面に波紋をつくることなく、わたしの横の地面に落ちて、チャリンと音を立てた。
えっ、はずしちゃった?
わたしは狼狽した。
うろたえている愚かな姿を周りの観光客に見られていて、恥ずかしかった。
わたしは逃げるようにトレビの泉から離れた。
風なんてない穏やかな日だったのに、どうしてわたしがコインを投げようとしたときに限って、強い風が吹いたのだろう。
その後、ヴァチカン市国へ行ったのだが、わたしはなにも感じなかった。
ローマに飽きていた。
この街で記憶に残っているのは、真実の口の痛みとトレビの泉に落ちなかったコインの乾いた音だけ。
イタリアから離れよ、と神が言っている気がした。
次の国へ行こう、とわたしは思った。
旅行代理店へ行き、カイロへの片道航空券を買った。
ローマには5泊し、167,400円使った。
移動費57,500円。
宿泊費61,000円。
食費39,300円。
その他9,600円。
これまでの総支出1,109,400円。
旅費残金8,890,600円。
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