第9話 羊肉を食べる

 ブルーモスクを出たら、とてもお腹が空いていた。

 昼食を取りたい。わたしはレストランを探した。

 路面電車が停まるスルタンアフメット駅の周辺に食堂がいくつかあって、混んでいるレストランに入った。流行っている店にはずれは少ない。

 昨日は魚を食べた。今日はがっつり肉を食べようと決めている。

 メニューをじっくりと見た。

 シシ・ケバブ。羊肉の串焼き。これは定番だ。食べねばなるまい。

 ドネル・ケバブ。香辛料やヨーグルト、マリネなどで下味を付けた肉をスライスして積み重ね、あぶり焼きにした肉料理。日本にも多くの屋台があるが、本場ものを食べたい。

 これだけでお腹がいっぱいになるだろうか。

 とりあえず、ふたつの料理を注文した。

 テーブルに2皿が運ばれてきて、わたしは驚いた。

 シシ・ケバブは3串あり、タマネギとトマトのサラダ、ピラフ付きだった。

 ドネル・ケバブの皿にもサラダとピラフが付いていた。

 2食分……。

 あれ? これは困ったぞ。

 わたしはまず肉から攻めた。

 羊肉料理にかぶりつき、がつがつと食べた。

 シシ・ケバブはシンプルに美味しく、ドネル・ケバブは複雑な味で旨かった。

 羊をこれほど美味しいと思ったのは初めてだった。

 日本では牛、豚、鶏がメジャーで、羊はマイナーな肉なのはどうしてなんだろう?

 イスタンブールの羊は臭みや癖がなくて、とても美味しく感じられた。

 次に野菜を食べた。

 栄養学的に重要だ。サラダが付いているのはありがたい。 

 問題はピラフだ。

 肉と野菜を食べて、すでにわたしのお腹はいっぱいになっている。

 松の実入りのピラフ。大切な食べ物を残したくない。

 胃に押し込んだ。ぷっくりとお腹が膨らんだ。く、苦しい……。

 旅を始めてから、食べ過ぎることが増えている。このままでは太ってしまう。運動して、たくわえたエネルギーを放出しなければ。

 わたしはカロリーを発散させるべく、トプカプ宮殿に向かった。

 オスマン帝国皇帝の居城。トプは大砲、カプは門という意味だ。

 広大な宮殿を歩いて見て回った。

 腹ごなしだ。

 美しい装飾だらけで、すぐに飽きた。わたしはあまり人工建築物には心を動かされないのだ。

 ずんずん歩いた。

「スプーン屋のダイヤモンド」と呼ばれる巨大宝石の前で、足を止めた。でかい!

 メフメト6世、あなたは亡命したが、これを持っては行かなかったのだな。

 トルコの至宝はここに残っている。よかった。

 6世、安らかに眠ってくれ……!

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