あべこべハーレム異世界に転生したはいいけど、『嘘つくの禁止』ってコレ詰んでね?

途上の土

第1章 ハーレムとは呼べない

第1話 『嘘つくの禁止』ってこれ詰んでね?


「ま、まこと先輩! す、好きです! つつつ付き合ってください!」


 栗栖くりすさんがやや短めの制服スカートをギュッと握りしめて口ごもった。

 彼女の視線は僕のそれと交わらない。僕の顔より遥か下を左右にふらりふらりと彷徨う。


 僕は眉間に皺をよせて、頭をフル回転させた。


(来たか……! しくじるなよ僕!)


 胃がしくしくと落ち着かない。

 ゴクリと唾を飲み込む音がした。多分僕の方だ。

 彼女は依然、ビクビクと居心地悪そうに僕の返答を待っている。



 この男女比1:10のあべこべハーレム世界に転移させられる前であれば、余裕の笑みでウキウキと曖昧な返答をして、都合の良い女第18号にしていたことだろう。

 だが、ここではそうはいかない。


「いや、あの……気持ちはありがたいんだよ? ありがたいんだけどね――」

「――ありがたいのは私の方です! まこと先輩! 生まれてきてくれてありがとうございます!」


(グイグイ来るゥ〜……話聞かないでグイグイ来るゥ〜)


 南校舎のはしはし

 階段を上がったところにある屋上へと続く扉前。

 扉には錆びついた南京錠がつけられ屋上には出られない。

 だが、ここは女子が男子に告白するにはもってこい、と言える程度には人気ひとけがない。

 屋上には出られないのだから、この階段を登る意味がないのだ。


「僕そもそも君のことまだあんまり知らないんだけど」


 断るのには正当な理由だ。よく知らない女の子とは付き合えない。最善の一手と言えた。


栗栖くりすくるみ。15歳。真先輩の命の恩人で、国会議員の親を持つので味方につけると何かとお得な普通の女子高生です。最大の特徴は真先輩への異常な愛です」


(全然普通じゃねェェエエエ! ここぞとばかりにアピールしてんじゃねェよ!『異常』ってところしかしっくりこなかったわ!)


 額に張り付いた玉の汗が一粒つたい落ちる。

 対応を間違えるな。慎重に……慎重にことを進めるんだ。

 一歩間違えば僕の学校生活が終わる。


「い、いやァ〜、流石にいきなり付き合うってのは――」

「――じゃァお友達! お友達から始まり、セッ◯スに向かいひた走る……そんなラブストーリーを一緒に紡ぎませんか?」



(言い方! なんでゴールがセッ◯スなの?!)



「……ひた走らない」

「そんなァ!」栗栖さんはこの世の終わりかのように床に手と膝をついた。

 なぜセッ◯ス前提の友達付き合いが許可されると思ったのか……。










「…………そんなに……そんなに私のこと嫌いですか?」脈絡なく栗栖さんが問いかけた。



(質問……?! しまった! やられた!)



 自分の迂闊さに気付くとほぼ同時に、僕の口が勝手に動いた。














「嫌いじゃない。セッ◯スしたい」







 時が止まった。

 一瞬の後、栗栖さんが動き出す。








「………………へ?!」


 その赤ちゃんのように柔らかそうなほっぺたがボッと赤く染まった。

 栗栖さんが「はぅっ」と前髪を垂らして顔を隠す。

 ミルクティーのような優しい色合いの茶髪が揺れ、シャンプーの心地良い匂いが広がった。


 僕はといえば、頭を抱えて「落ち着け」と連呼し、必死に自分を落ち着かせようと試みていた。


(落ち着け。大丈夫。大丈夫だ。まだ巻き返せる。まだごまかせる)


 しかし、栗栖さんは待ってはくれない。

 今の僕に追撃を警戒する余裕はなかった。


「そ、そ、そ、それは、わわわ私のことが好きって……ことですか?!」


 栗栖さんの視線は定まらず、忙しなく彷徨う。


 僕は当然、こう答える。

 というか、こう答えるしか出来ないのだ。

 なぜなら、それが僕のだから。
































「ううん、全然好きじゃない。でもセッ◯スはしたい」

















「……………………ぇ」





 ついたあだ名は『ザ・ビッチクソッタレのオブ・クソビッチ野郎』略して『ビチグソ』

 僕の平和な日常は早々に崩れ去った。

 なぜこんなことになったのか。

 それもこれも、すべてあのクソッタレなロリ神のせいだ。

 



 あの日のことを思い出し、ため息が漏れた。

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