第5話

私は家に帰った。

夕日が沈もうとしている。

冬の終わりの西の空は、季節外れの夕焼けに染まっていた。


明日は晴れるだろう。


その晩、私は順平くんの家に届ける染め物の用意をした。

母にも相談した。

「そう。それじゃあ、今まで染めた中で、一番いいのを持っていきなさい。眞白が順平くんところにお嫁に行ってくれたら私も嬉しいよ」

「え? それってさ、姉ぢゃの新潟みたいな遠いところじゃないから、でしょ?」

「ふふふ。そういうことじゃないよ。まあ、近くに嫁いでほしいという気持ちもあるけんど、順平くん、いい子でしょ。眞白、まっきれがんばれ

「うん」

「色の白いは七難隠す、って言うでしょ」

「母さんもそれ、言うの?」

「眞白のこと、褒めているのよ。眞白の良さは、白いところ。それはね、肌の色だけじゃない。眞白の心もきれいな白で、私の自慢の娘よ」


母さんがここまで私のことを褒めてくれるなんて今までになかった。

白か……


いろいろ考えてしまってよく眠れなかったけれど、日が昇る頃、私は染めた布を持って畑に行った。

3月の畑には、まだまだ雪が残っていた。

春が近づいてきているので、雪の表面は日差しで少し解け、夜中になると再び凍るといったことを繰り返し、硬い雪になっていた。

私は、自分が染めた麻の反物を真っ白な雪の上に広げた。

朝日は昇っていき、広げた反物を優しく照らしていた。

空には雲ひとつなく、風もない。


それから、数時間ごとに私は畑に晒した布を見に行った。

冬の畑には誰も入らないから、畑一面、真っ白な雪の色に染まっている。

春の日差しは、少しずつ雪をとかしていく。

雪の白さが、麻布あさぬのに染み込んでいきますように……


午後には、広げていた布を集め、家に持ち帰って水洗いする。

翌日、晴れていれば、また畑の雪の上に広げに行く。

これを毎日繰り返した。

幸い、いい天気に恵まれて一週間続けることができた。


これで大丈夫だろう。


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