第2話
順平くんを私色に染める?
そう考えて、私は一人で笑ってしまった。
私って、相手を自分色に染めることができるような人間ではない。
私の名前は眞白。白は相手から簡単に染められてしまう色だけど、白で相手を染めることはできない。
まるで、名前通りの人生。
でも、それでいい。
相手を自分色に染めることだけが人生ではないからだ。
好きな相手に染められる人生だって、とっても素敵だと思っている。
そうだ、私は順平くんを染めることはできないけど、織物を染めることはできるんだ。
私が染めた手ぬぐいを、順平くんにプレゼントしよう。
作業場を見渡してみると、新品の白い手ぬぐいがあるのを見つけた。これを染めてみることにした。
私は乾燥した藍の葉っぱを
「タデ食う虫も好き好き」なんて言葉があるくらいだから、藍の葉ってどんなに苦いんだろうと思って、一口食べたことがある。
確かに苦かった。タデは薬用としても使われることがあるらしい。食用栽培もされているのだとか。
現に、
藍には防虫効果もあるのだ。
次に、
茶道では「お茶をたてる」という言葉があるけど、藍染では「藍をたてる」という言い方をする。
「青は藍より出でて藍より青し」なんて言葉の通り、確かに藍の葉っぱの色は普通の緑だし、染料自体もなんとなく黒っぽい感じで、とても青には見えない。
しかし、この色の染料につけることで美しい青に染まるのだから、藍染って本当に不思議。
私は手ぬぐいを丁寧に三角形に折り畳んだ。
それを2枚の三角形の木の板ではさみ、紐で固く縛る。
染料の方を見てみると、表面に泡が立っていた。
この泡のことを「藍の華」という。
藍の華が咲く頃に染めると、きれいに染まるのだ。
私は、三角形に折り畳んだ手ぬぐいの一辺をそっと、藍の華が咲く染料に浸していく。
手に染料から上る湯気の温かさが伝わってくる。
染料は手ぬぐいにゆっくりと染み込んでいった。
このまま数分間、持っていないといけないのが辛いけど、同時にわくわくする気持ちも高まってくる。
よし! 十分に染み込んだみたい。
私は布を引き上げる。
染み込んでいる染料の色は、とっても暗い色をしている。
けれども、こうして引き上げて空気に晒すと、美しい青色に変わっていくのだ。
難しい言葉で酸化還元反応というらしくて、空気に触れることで酸化して青い色に染まるんだとか。
染料と空気の力で染まっていく。
藍染って本当に不思議。染まるときはいつも感動してしまう。
この後、水で十分に洗い流す。
真冬の水はとても冷たい。染め物で辛いのが、冬場の水仕事だ。
しかし、こればかりは仕方ない。水が冷たいほど美しく染まるような気もする。そう思うことで私は冷たい水に耐え、手ぬぐいを洗った。
染めた布を開いてみる。
染め物をしていて一番楽しいのが、この瞬間だ。
さて、きれいに染まっているかな?
できた! 雪の結晶!!
三角形に折り畳んで一部を染めたので、開くことでちょうど六角形の模様ができあがる。
真っ白だった手ぬぐいは鮮やかな青に染まり、雪の結晶の華が並んで咲いていた。
このあと、十分に乾燥させ、色を定着させて完成となる。
我ながら、綺麗にできたと思う。
順平くん、喜んでくれるといいな。
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