美術部の先輩女子からヌードを描いてほしいと頼まれた
矢木羽研(やきうけん)
第1話:先輩との2年間
高校に入ってから、僕は美術部に所属することにした。
美術部と言っても、部員は一年上の女子の先輩と僕の二人しかいない。顧問もいないので実質愛好会のようなものだ。
放課後の美術室は誰も使わないので、黙認のような形で成り立っているとのことだ。
「君はどうして美術部に入ろうと思ったの?」
たった一人の部員である先輩に尋ねられた。
「えーと、漫画とかアニメが好きで、自分でも書ければ楽しいだろうって思ったんですよね」
「いいわね。私も漫画は大好きよ。でも漫画風のイラストを描く場合でも基礎ができていないとね」
それからというもの、美術の基礎がまるでできていなかった僕に、先輩は厳しくも親身になって教えてくれた。
デッサンの基本、パースの取り方、色の重ね方など、様々なことを教わった。
内容自体は中学の美術でも習ったのだが、直接指導してくれるので身につき方が段違いだった。
***
「先輩、僕の指導だけじゃなくて描きたいもの描いてもいいんですよ」
「いいの。こうやって人に教えることで自分の基本も見つめ直すことができるしね」
放課後の美術室に二人きりで、僕のために指導してくれる先輩。
恋心を抱くのは当然だったが、関係性が変わるのが嫌で口には出せなかった。
「静物には慣れたみたいね。次は人物を描いてみましょうか」
「人物っていいますと、モデルは?」
「お互いに、絵を描いている姿をモデルにするのよ」
そうして、僕たちは向かい合って座り、お互いを描き始めた。
絵のモデルのためとはいえ、先輩をまじまじと見ることが許されるのは嬉しい。
ただ、先輩は絵を描く時に前屈みになる癖があり、そのたびにセーラー服の胸元から下着が見えてしまう。
しかし、それを絵にしてしまうのは恥ずかしかったし、先輩に怒られるかも知れないので、曖昧に黒塗りで誤魔化してしまった。
「ねえ、服の中が黒く塗られているのはなぜかしら」
出来上がった絵を見た先輩は僕の誤魔化しに目敏く気づいた。
「えーと、何かまずかったですか」
「とぼけないで。君から見た場合、服の中にも光が刺して中は見えるはずよね」
「さすがにそれを描くのはまずいかと思いまして……」
「これは真面目な美術なのよ。ちゃんと見えたまま描きなさい」
それからというもの、僕は先輩の下着を気兼ねなく描くようになった。
***
「今日は天気がいいから外で描くわよ」
学校の裏手には川があり、そこの土手は絶好の写生場所だった。
「私はここに決めたわ」
先輩は川向いにある工場が見えるポイントに狙いを定め、鞄を椅子代わりにして土手の斜面に腰掛けた。
下側にいる僕からはスカートの中が丸見えなのだが、まったく気にしていない。
ここで先輩を意識して移動したりするとまた何かを言われそうなので、僕は一度決めたポイントに腰を据えることにした。
僕も土手を背にしているので、先輩の方を見ることはないはずだ。
「ねえ、緑の絵の具切らしちゃったんだけど分けてくれる?」
「あ、はい!」
振り返るたびに先輩のスカートの中が嫌でも目に入ってしまう。
普段は黙って絵を描くことが多い先輩だが、今日は妙に声をかけてくる気がする。
もしかしてスカートの中身を僕に見せつけたいのかな、と思ったが、考え過ぎだろう。
思わせぶりな先輩の行動に振り回されつつも、僕たちの関係は変わらなかった。
真面目に絵を書き続けたので、月日を重ねるごとに次第に画力が上達していくのを感じる。
そして、2年生の三学期が訪れた。この春で先輩は卒業する。
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